リリィが期待に満ちた眼差しでシャルロッテとパーシヴァルを交互に見る。
 正直なところ、シャルロッテはそこまでエリアスのことを知らなかった。かなり昔にパーティーで数度一緒になったことがある程度で、特段親しく話した記憶もない。
 その数少ない数度の記憶を呼び起こしてみても、綺麗な男の子だったという印象しかないが、お伽噺の王子様と言われれば確かにそうかもしれない。
 美しい金色の髪と、透き通るような翡翠色の瞳が印象的だった。物腰も柔らかく、幼いながらも紳士的で上品な人だったと記憶している。
 どうやらパーシヴァルも、シャルロッテと同じ程度の認識だったようだ。

「実は私も、エリアス様とは数度しかお会いしたことがないのですが……その時はお噂通りの方だったと記憶しています」

 その時は、と限定したことに些細な違和感を覚えつつも、エリアスに関してもう一つ思い出したことがあり、シャルロッテの思考はそちらに逸れてしまった。

「エリアスさんはシルヴィの親戚なのよね」
「え、そうなんですか?」
「あら? 知らなかったの?」
「初耳です」

 パーシヴァルも知らなかった事実を知っていたことに、軽い優越感を覚える。心持ち胸を張って「シルヴィから聞いたのよ」と付け足す。

「シルヴィのお母様とエリアスさんのお母様に血縁関係があるんですって。はとこって言ってたかしら」
「確かシルヴィ嬢の母上は南方の御出身でしたよね?」
「えぇ。でも、多少北方の血も入っているそうよ」

 シルヴィのあの美しい小麦色の肌は母親譲りで、確かに南方の血を感じるが、目に痛いほどに輝く純銀の髪は北方に多い色だった。

「あぁ、だからですか。確か母上は落ち着いた色合いの茶で、マールヴェル男爵もシルヴィ嬢のご兄弟も明るい茶色の髪をしてましたよね。シルヴィ嬢だけ珍しい髪色だとは思っていましたが……なるほど、北方の。言われてみれば、フォルミコーニ子爵夫人は色白で髪色も淡かったような気がします」

 南方の血が濃く出ているシルヴィの母親と、北方の血が濃く出ているエリアスの母親。その二人の間に血縁関係があると気づく者は、そうそういないだろう。
 納得したように唸るパーシヴァルの隣で、シャルロッテはつい先刻彼が口走った違和感について思い返していた。

「ところでパーシヴァル、お会いした時はお噂通りのかただったって言ってたけれど、今は噂通りのかたではないってことかしら?」
「あぁ……いえ、そう言うわけではないのですが。何と言いますか、別の噂が聞こえるようになってからはお会いしていないと言いますか」
「別の噂?」

 さらなるシャルロッテの追及に、パーシヴァルが難しい顔で考え込んだ後で、躊躇いがちに口を開いた。

「本当かどうかは分かりませんが、エリアス様は鏡の中の人物とよくお話をされているとか……」