未来を見通す目を持つとされる始まりの魔女は、最初は聖女と呼ばれていた。
その特別な目を用いて天候を読み、王国の危機を察知し、数多の人々を助けてきた。その能力を間近で見た者たちは皆、彼女の力を認め崇拝した。
王国で最も高い場所に住み、最高級の服を着て贅沢な食事をしていた聖女が国を追われる魔女へと変わったきっかけは、第一王子の死を予言したことだった。
温和で優しく、民からも愛されていた王子の最期を、聖女は“民衆の暴動によって”と告げた。
彼に限ってそんなことは起きないと、最初は一笑に付された予言だったが、王子に不信の種を植え付けるのには十分だった。
聖女の予言が間違っていたことは、今まで一度もない。どれほど眉唾物の予言だったとしても、彼女が口にしたことは実際に起きてきたではないか。
そんな不安から、王子は次第に内向的になっていった。
民から距離を取り、友人たちと疎遠になり、信頼していたはずの臣下ですらも切り捨てるようになった。最後には慕っていた父王を隠居に追いやり、王座に就くと圧制を敷いた。民が決して自分に歯向かってこないように、重税を課し少しでも不平不満を口にする者は処刑していった。
虐げられた民たちが力を合わせ、王城になだれ込むのにそう時間はかからなかった。
王は聖女の予言通り、民衆の暴動によって命を落とした。
王を倒した後で、民衆の怒りは聖女へと向けられた。
彼女があんな予言などしなければ、王子は元の心優しい青年のまま成長し、いずれ王座に就き、理想的な国を築いたはずだ。それなのに、聖女の予言によって、王は変わってしまった。
もしかしたら、聖女は“予言”によって未来を捻じ曲げているのかもしれない。
彼女が今まで“予言”したことは全て、これから起きることではなく、これから彼女自身が起こすことだったのだ。
彼女は予言により世界を助ける善なる聖女ではなく、予言により世界を混沌に陥れる悪しき魔女だったのだ。
怒れる民衆が魔女へと堕ちた聖女を捕えようと躍起になる中、彼女は不敵に笑ったとも必死に言い訳をしたとも言われている。古い資料は信ぴょう性が薄く、どれが正解なのかは分からない。
ただ、混乱のさなか魔女は捕まることなく国を抜け出し、どこかへと姿を消したと言うことだけは確かだった。
「シャルロッテ様、どうかなさいましたか?」
ダリミルの柔らかな呼びかけに、シャルロッテは顔を上げた。
遠い昔に読んだ物語を今一度記憶の奥深くに沈め、小さく微笑むと首を振った。
「いいえ、なにも。懐かしいお話をふと思い出しただけです」
お話という言葉に反応したダリミルの質問を軽くかわし、シャルロッテは心を落ち着けるために深く息を吸い込み吐き出した。
ブリュンヒルデが転生者などと言うことは、あってはならないのだ。
その特別な目を用いて天候を読み、王国の危機を察知し、数多の人々を助けてきた。その能力を間近で見た者たちは皆、彼女の力を認め崇拝した。
王国で最も高い場所に住み、最高級の服を着て贅沢な食事をしていた聖女が国を追われる魔女へと変わったきっかけは、第一王子の死を予言したことだった。
温和で優しく、民からも愛されていた王子の最期を、聖女は“民衆の暴動によって”と告げた。
彼に限ってそんなことは起きないと、最初は一笑に付された予言だったが、王子に不信の種を植え付けるのには十分だった。
聖女の予言が間違っていたことは、今まで一度もない。どれほど眉唾物の予言だったとしても、彼女が口にしたことは実際に起きてきたではないか。
そんな不安から、王子は次第に内向的になっていった。
民から距離を取り、友人たちと疎遠になり、信頼していたはずの臣下ですらも切り捨てるようになった。最後には慕っていた父王を隠居に追いやり、王座に就くと圧制を敷いた。民が決して自分に歯向かってこないように、重税を課し少しでも不平不満を口にする者は処刑していった。
虐げられた民たちが力を合わせ、王城になだれ込むのにそう時間はかからなかった。
王は聖女の予言通り、民衆の暴動によって命を落とした。
王を倒した後で、民衆の怒りは聖女へと向けられた。
彼女があんな予言などしなければ、王子は元の心優しい青年のまま成長し、いずれ王座に就き、理想的な国を築いたはずだ。それなのに、聖女の予言によって、王は変わってしまった。
もしかしたら、聖女は“予言”によって未来を捻じ曲げているのかもしれない。
彼女が今まで“予言”したことは全て、これから起きることではなく、これから彼女自身が起こすことだったのだ。
彼女は予言により世界を助ける善なる聖女ではなく、予言により世界を混沌に陥れる悪しき魔女だったのだ。
怒れる民衆が魔女へと堕ちた聖女を捕えようと躍起になる中、彼女は不敵に笑ったとも必死に言い訳をしたとも言われている。古い資料は信ぴょう性が薄く、どれが正解なのかは分からない。
ただ、混乱のさなか魔女は捕まることなく国を抜け出し、どこかへと姿を消したと言うことだけは確かだった。
「シャルロッテ様、どうかなさいましたか?」
ダリミルの柔らかな呼びかけに、シャルロッテは顔を上げた。
遠い昔に読んだ物語を今一度記憶の奥深くに沈め、小さく微笑むと首を振った。
「いいえ、なにも。懐かしいお話をふと思い出しただけです」
お話という言葉に反応したダリミルの質問を軽くかわし、シャルロッテは心を落ち着けるために深く息を吸い込み吐き出した。
ブリュンヒルデが転生者などと言うことは、あってはならないのだ。