(他には……マクシミリアン男爵のアデル嬢、エッゲシュタイン子爵のエリザ嬢と妹のシエラ嬢)

 頭に令嬢の顔を思い浮かべては否定する。
 アデルは生粋の研究家で、常に自身の研究を優先して生きている。クリストフェルに使える時間は無いはずだ。
 エリザは幼い頃からオウカ国の貴族に片思いをしているらしく、その熱の入れようは尋常ではないと聞く。シエラもまた、マールグリッドの騎士に思い人がいると聞く。エッゲシュタイン子爵のご令嬢たちは惚れっぽく、一度好きになった相手を一途に思い続けることで有名だ。

(リーデルシュタイン王国のご令嬢ではない可能性もあるのよね)

 オウカやマールグリッド、スーシェンテの貴族というのもあり得る。可能性を追い続けたらきりがないのだ。
 このまま悩んでいるのも馬鹿らしいと感じたシャルロッテは、つかつかとクリストフェルの前まで歩み寄ると、未だに呆けた顔をしている彼に尋ねた。

「王様には、お慕いしている方がいらっしゃるのですか?」
「えっ……」

 直球で聞けば、クリストフェルの顔がみるみる赤くなった。

「いや……その……」

 うろたえるクリストフェルの様子に、思い人がいるのだと確信したシャルロッテは満足げに微笑むと頷いた。

「分かりました。近日中に、婚約を破棄する旨を通達してください。よろしくお願いしますね」
「困りますシャルロッテ様!」

 外野がうるさく言ってくるが、シャルロッテは涼しい顔で髪を背に払うと、ツンと顎を上げて胸をそらした。

「私は別に困りませんので」

 それだけ言い捨てて、足早に議場を後にする。
 何人かがついて来ようとしていたようだが、ドレスの裾をたくし上げて大股で歩くシャルロッテの無言の怒りを前に、誰もが閉口してその背を見送ったのだった。