ダリミル・クルハーネクは、シャルロッテの一つ上の先輩だった。
 物静かで理知的な彼は、いつも手に本を持っていた。かなりの読書家らしく、毎日違うタイトルの本を読んでいた。
 聞くところによると、クルハーネク家は代々本の虫が多く、敷地内にはいくつもの書庫が建ち並んでいるらしい。国内外を問わず本を収集し読破しているため、語学に堪能なものが多い。彼もクルハーネク家の人間らしく語学に明るく、博学だった。
 ダリミルはやや癖の付いた茶色の髪を持っており、風が吹くとふわふわと揺れていた。眼鏡の奥の瞳は神秘的な夜色で、控えめな性格のためか、あまり人を真っすぐに見ることはない。やや顎を引き、心持ち上目遣いで見る癖があったが、その視線はすぐにそらされた。あまり長く目が合うことはなく、すぐに足元に視線を落としていた。
 身長は高すぎず低すぎず、体型も細すぎず太すぎずだったが、顔立ちは整っていた。
 華やかな見た目の子女が多い王立学校において、ダリミルは決して目立つタイプではなかったのだが、シャルロッテは彼のことをよく知っていた。

「ダリミル様って、どんな方なんですか?」

 リリィがキラキラとした目でそう尋ねる。白馬の王子様が出てくるおとぎ話を待ち望む子供のような純粋な眼差しから、シャルロッテはそっと目をそらした。

「ダリミルさんはリリィが聞いているように、とてもお優しく、穏やかで、優秀なかたで……生徒会副会長をしていたの」
「王立学校の生徒会副会長なんて、すごいですね! 確か、ブリュンヒルデ様が生徒会長をなさっていたんですよね?」
「えぇ……そうよ……」

 歯に物が挟まったような言いかたのシャルロッテに、リリィが首を傾げる。パーシヴァルも怪訝な顔でこちらを見ているが、どう説明したら良いのか分からないため、二人の視線から逃げるように俯くと、リリィの持ってきたポットに手を伸ばした。
 シャルロッテが無言で紅茶を淹れようとしているのに気付き、自身の仕事を思い出したリリィが、さっとポットを持ち上げ優雅な所作でカップに紅茶を注ぐ。ふわりと立ち上った湯気に、甘い茶葉の香りが広がる。
 シャルロッテはカップの中で揺れる琥珀色の液体を見つめながら、“可哀そうな”ダリミルのことを思い出していた。