鏡の前に座り、機嫌が良さそうな顔でシャルロッテの髪をいじるメイを見つめる。
 パーシヴァルがしばらくの間屋敷にいると聞いて、不服の表情を浮かべていたメイだったが、隠しきれない喜びが不満を上回ったようだ。パーシヴァルを睨みつけるだけで、それ以上は何も言わずにシャルロッテを部屋へと連れだした。
 急かすように鏡台の前に座らせ、丁寧に髪をとかすと編み込んでいく。黒いゴムで一つに結び、ポケットから取り出したリボンをヒラヒラとシャルロッテの顔の前で揺らした。

「今回は黄色なのね。春の野花みたいな綺麗な色……」

 上質な手触りのリボンには、繊細な刺繍が施してあった。白い花を一輪口にくわえ、優雅に羽を広げる青色の鳥を指先で撫でる。幸運を運んでくると噂されている青色の鳥は、よくリボンに刺繍されていた。そこに込められた作り手の気持ちを感じ取り、そっと目を閉じる。
 シュルリと音を立てて手の中から抜き取られたリボンが、三つ編みにした髪に飾られる。
 メイが三面鏡を手に、背後に立つ。キッチリと編み込まれたプラチナブロンドの髪の下で、蝶々結びにした鮮やかな春色のリボンが揺れている。頭を動かすたびにリボンが揺れ、青い鳥が躍る。満足げに胸を張るメイに、シャルロッテは鏡越しに微笑むと、少し考えてから曖昧な言葉を口にした。

「綺麗ね」

 リボンのことなのか、一部の乱れもなく編まれた髪のことなのか、どちらともとれるように言葉を濁す。
 メイが鼻を膨らませながら胸を張るのを見ながら、シャルロッテは改めてリボンに触れた。

 ヘクターがメイを訪ねてくるとき、必ず二本のリボンをお土産に持ってくる。かなり腕の立つ職人が作ったと思しきリボンは、普通に買ったら相当な金額がかかると思うのだが、ヘクターはタダで貰ってきているからお金はかかっていないと言っていた。

「職人が、ぜひシャルロッテ様とメイ姉さんにつけてほしいと言っていまして……」

 ヘクターのその一言で、シャルロッテには職人が誰なのか分かった。

 メイの父親は、腕の良い刺繍職人だと聞いたことがあったのだ。