シャルロッテの空色の瞳が細められる。鋭さを帯びた眼差しに一瞬だけ怯みそうになるが、パーシヴァルはギュっと奥歯を噛みしめると真正面から見返した。
 無言の茶室で、先ほどまでは気にならなかった時計の針の音が、やけに耳につく。
 シャルロッテの探るような瞳がゆっくりと逸れ、引き結んでいた口元が緩められると微笑んだ。

「酷い言い草ね。娘とお茶をする時間が無駄だなんて」
「お言葉ですが、ロックウェル子爵はそう言うかたです」

 子供の誕生日にすら、時間を惜しんで帰ってこないような人なのだと、パーシヴァルもよく知っていた。ロックウェルの名を継ぐために男児が一人、いずれ良家へと嫁がせるための女児が一人。全ては、自分のための駒に過ぎない。
 愛情など持っていないと断言できるほど、ロックウェル子爵は血を分けた子供たちを顧みない人だった。

「ブリュンヒルデ様のお菓子も、ヴァネッサ様のパンも、有名店に引けを取らない味です。しかし、ロックウェル子爵が人目のないところで口にするとは思えません。あのかたにとっては、名こそ全てなのです。有名店の出すものこそが、自分には相応しいと思い込んでいるようなかたです」

 そこには、味の良し悪しなど関係がない。ロックウェル子爵は、自分と同価値のものにしか評価を与えない。そして彼の中での自身の評価は、伯爵家の妻たちよりも高い。
 元が平民と男爵家の令嬢なのだから、伯爵の称号には値しないとすら思っているのだろう。

「ずいぶん嫌っているのね」
「あのかたを好きになる人のほうが少ないと思いますが。子供二人を代わりに育てた乳母の葬儀にすら顔を出さないような人ですよ?」

 シャルロッテが考え込むように俯き、細い肩からサラサラと髪が零れ落ちた。
 柔らかな夕日を受けて、プラチナブロンドがオレンジ色に染まる。白い肌も淡く色づき、顔に濃い陰影ができる。長いまつ毛が光を遮り、瞳が暗く色を変えた。
 妖精姫という二つ名が浮かぶほどに美しい顔だったが、微動だにせずに一点を見つめるその姿は作り物めいて見えた。彫刻家が人生をかけて作り上げた最高傑作の彫像だと言われれば頷いてしまうほどに、理想的な美そのものだった。

「パーシヴァルは、王城の食堂に飾られている肖像画を思い出せる?」
「クリストフェル王が生まれたときのですか?」

 そうだと言うように、シャルロッテが頷く。
 口元だけに張り付けた笑みが、余計にシャルロッテを人工物のように見せていた。