「プリシラ孤児院には、アリアシスターがいるからじゃないかしら? 私たちもお世話になったけれど、クラリッサが一番慕っていたでしょう? 将来はアリアシスターみたいになるって言い張って、シスターを困らせていたじゃない」
シャルロッテの言葉に、シルヴィがポンと手を打つと破顔した。先ほどまでの表情とは打って変わって、幼い子供のような笑顔に戻っていた。
「そうそう! 覚えてるよそれ! ヴァルが、魔女はシスターにはなれないって言って、クララのこと泣かせたんだよね!」
十人程度の小規模なお茶会の席では、司祭やシスターが呼ばれることがあった。司祭が大人相手に説教をしている間、シスターは子供たちを集めて絵本を読んだり、遊び相手になってくれていた。司祭がおらず、シスターだけの時もあったため、子守の側面が強かったのだろう。
その時々によってシスターは違っていたが、シャルロッテたちは明るく元気で優しいシスターアリアが一番好きだった。
「そう言えば、プリシラ孤児院にいるって言ってたもんね。懐かしいなあ。リアシスターは元気?」
「元気だよ。シルヴィちゃんも今度、一緒に行こうよ」
「そうだ! 今から一緒に行くのはどうかな?」
「シルヴィちゃんが良ければ構わないけど……」
「やった! そうと決まれば、早く行こう! あ、シャリー、余ったお菓子とかパンも一緒に持って行っても良い?」
今にもクラリッサの手を引っ張って出て行きそうな勢いだったシルヴィが、テーブルの上に残っている物を見て足を止めた。
「もちろん。ヒルデちゃんとヴァネッサさんがたくさん作ってきたから、売るほどあるのよ。むしろ、持って帰ってくれると有り難いわ。他にも何かあるかもしれないから、マンフレットにきいてみて」
「分かった! 有難うシャリー! さ、遅くならないうちに早く行こう!」
「シャルロッテちゃん有難う。アリアシスターにはちゃんと伝えておくからね」
シルヴィにグイグイ背中を押されながらも、クラリッサはなんとかそれだけ伝えると、廊下へと押し出されていった。
「シャリーもハイディも、また近いうちに会おうね! ……あとヴァル。今日は“そう言うことにしておいてあげる”ね」
意味深な笑みを残して、シルヴィが廊下へと消えていく。チラリとパーシヴァルを横目で見れば、張り付いたような笑顔を浮かべていた。一見すると普段と変わらないように見えるが、その顔色は心なしか青ざめていた。
「全く、シルヴィはいつも騒々しいわね。とは言え、わたくしも今日は帰るわ。素敵な紅茶とお菓子をありがとう、シャルロッテ」
「こちらこそ。久しぶりにみんなと話せて、とても楽しかったわ。お菓子とパンは包んであるから、ぜひ持って帰って」
優雅に一礼をしたハイデマリーが、ぱっと顔を輝かせて胸元で手を組む。
「今週末にね、お父様が帰ってくるのよ。この紅茶も、ブリュンヒルデもお菓子も、ヴァネッサのパンも、きっとお父様は気に入るはずだわ」
「お父様……?」
パーシヴァルがその先の言葉を言ってしまう前に、シャルロッテは目で制した。察しの良い彼が口を閉じ、素早く何事もなかったような微笑みを浮かべる。
ハイデマリーはパーシヴァルが何かを言いかけたことには気づいていなかったらしく、シャルロッテに重ねてお礼を言うと足取りも軽く茶室を後にした。
残されたシャルロッテとパーシヴァルは、彼女の足音が十分離れたのを確認するとふっと息を吐いた。
「今のはどういうことですか、シャルロッテ様?」
「どういうこと、と言うのは?」
「ハイデマリー嬢の言っていたことですよ」
パーシヴァルの青い瞳が、探るようにシャルロッテを見つめる。
「あのロックウェル子爵が、娘とお茶をするなんて無駄な時間を過ごすとは思えません」
シャルロッテの言葉に、シルヴィがポンと手を打つと破顔した。先ほどまでの表情とは打って変わって、幼い子供のような笑顔に戻っていた。
「そうそう! 覚えてるよそれ! ヴァルが、魔女はシスターにはなれないって言って、クララのこと泣かせたんだよね!」
十人程度の小規模なお茶会の席では、司祭やシスターが呼ばれることがあった。司祭が大人相手に説教をしている間、シスターは子供たちを集めて絵本を読んだり、遊び相手になってくれていた。司祭がおらず、シスターだけの時もあったため、子守の側面が強かったのだろう。
その時々によってシスターは違っていたが、シャルロッテたちは明るく元気で優しいシスターアリアが一番好きだった。
「そう言えば、プリシラ孤児院にいるって言ってたもんね。懐かしいなあ。リアシスターは元気?」
「元気だよ。シルヴィちゃんも今度、一緒に行こうよ」
「そうだ! 今から一緒に行くのはどうかな?」
「シルヴィちゃんが良ければ構わないけど……」
「やった! そうと決まれば、早く行こう! あ、シャリー、余ったお菓子とかパンも一緒に持って行っても良い?」
今にもクラリッサの手を引っ張って出て行きそうな勢いだったシルヴィが、テーブルの上に残っている物を見て足を止めた。
「もちろん。ヒルデちゃんとヴァネッサさんがたくさん作ってきたから、売るほどあるのよ。むしろ、持って帰ってくれると有り難いわ。他にも何かあるかもしれないから、マンフレットにきいてみて」
「分かった! 有難うシャリー! さ、遅くならないうちに早く行こう!」
「シャルロッテちゃん有難う。アリアシスターにはちゃんと伝えておくからね」
シルヴィにグイグイ背中を押されながらも、クラリッサはなんとかそれだけ伝えると、廊下へと押し出されていった。
「シャリーもハイディも、また近いうちに会おうね! ……あとヴァル。今日は“そう言うことにしておいてあげる”ね」
意味深な笑みを残して、シルヴィが廊下へと消えていく。チラリとパーシヴァルを横目で見れば、張り付いたような笑顔を浮かべていた。一見すると普段と変わらないように見えるが、その顔色は心なしか青ざめていた。
「全く、シルヴィはいつも騒々しいわね。とは言え、わたくしも今日は帰るわ。素敵な紅茶とお菓子をありがとう、シャルロッテ」
「こちらこそ。久しぶりにみんなと話せて、とても楽しかったわ。お菓子とパンは包んであるから、ぜひ持って帰って」
優雅に一礼をしたハイデマリーが、ぱっと顔を輝かせて胸元で手を組む。
「今週末にね、お父様が帰ってくるのよ。この紅茶も、ブリュンヒルデもお菓子も、ヴァネッサのパンも、きっとお父様は気に入るはずだわ」
「お父様……?」
パーシヴァルがその先の言葉を言ってしまう前に、シャルロッテは目で制した。察しの良い彼が口を閉じ、素早く何事もなかったような微笑みを浮かべる。
ハイデマリーはパーシヴァルが何かを言いかけたことには気づいていなかったらしく、シャルロッテに重ねてお礼を言うと足取りも軽く茶室を後にした。
残されたシャルロッテとパーシヴァルは、彼女の足音が十分離れたのを確認するとふっと息を吐いた。
「今のはどういうことですか、シャルロッテ様?」
「どういうこと、と言うのは?」
「ハイデマリー嬢の言っていたことですよ」
パーシヴァルの青い瞳が、探るようにシャルロッテを見つめる。
「あのロックウェル子爵が、娘とお茶をするなんて無駄な時間を過ごすとは思えません」