パーシヴァルの言葉に、周りで成り行きを見守っていた臣下たちも声を上げる。

「そうですシャルロッテ様! どうか先ほどのお言葉を今一度収めてください!」
「本当にクリストフェル王は知らなかったんです!」
「シャルロッテ様、お願いします、どうかお慈悲を!」
「ランヴァルド様もいつか王に言わなくてはいけないと言ってはいたのです! しかし、病状が悪化して言えずじまいになってしまい……」
「我々も、ランヴァルド様の喪が明けたら王に説明するつもりだったんです!」

 悲鳴と懇願が飛び交う議場で、クリストフェルだけが状況を理解できずにポカンと口を開けた表情のまま固まっていた。
 王に相応しくない間の抜けた顔に、パーシヴァルがすかさずクリストフェルの背中を叩く。

「ぼんやりしてないで、王子も早くシャルロッテ様に謝ってください!」

 よほど慌てているのか、うっかり口を滑らせて王子と呼んでしまっている。
 クリストフェルと同い年のパーシヴァルは、物心つく前から次期王の側近として一緒に育っていた。長年公の場で“王子”と呼んでいたため、なかなか癖が抜けないのだ。

「し、しかしパーシー、僕は何が何だか……」

 やっと我に返ったクリストフェルだったが、公の場だと言うことをすっかり忘れて口調が崩れている。そう、本来の彼は一人称が“僕”でパーシヴァルのことは愛称で呼んでいるのだ。

「良いですか王子、オウカとの貿易もマールグリッドとの同盟も、ランヴァルド王一人の功績ではないのです! シャルロッテ様の人脈と助言がなければ成しえなかった事なんですよ!」
「しかし、どちらもシャルロッテが幼い時に締結したもので……」
「シャルロッテ様は生まれついての天才なんです! シャルロッテ様の才能を見込んで、将来王子を支えるために婚約者になっていただけるよう、王がコルネリウス伯爵に直々に頼み込んだんです! それこそ、何か月も!」

 コルネリウス伯爵家にシャルロッテが誕生したのは、双子の息子が王立学校に通うようになってからだった。年の離れた妹の誕生に兄二人は喜び、伯爵もまた、シャルロッテを溺愛した。
 天使のように愛らしい顔立ちが評判になるのと同時に、彼女のたぐいまれな才能が開花した。誰に教わるでもなく文字を読み書きし、難解な学術書でさえも簡単に読み解いてみせた。
 クリストフェルと婚約をした五歳のときには、オウカとの貿易ルートを確保するための人脈作りの指揮を執っていた。最も効果的な人材を的確に配置した結果、正式な話し合いにまでこぎつけた。しかも、不平等な条約を押し付けることで有名なあの貿易大国オウカから、平等な条約を勝ち取ってきたのだ。

「シャルロッテ様がランヴァルド王を賢王に導いたのです! この国は、シャルロッテ様なくしては成り立たないんです!」
「そ、そんなこと……って……」

 狼狽するクリストフェルの目に、涼しい顔で微笑むシャルロッテが映った。