激しい迫害にあい、へき地へと追いやられた魔女たちは人間を憎んでいた。
 そんな魔女を、マティルダとリベリオがどうやって連れてきたのかは分からない。しかし彼女は圧倒的な火力で反乱軍を蹴散らすと、王都へと迫っていた戦火を後方へ押しやった。
 勢いづいた王国騎士団は戦線を押し上げ、次々と砦を取り戻した。敗走する反乱軍は次第に散り散りになり、いくつかの小部隊が抵抗を続けたのちに消滅した。

 リーデルシュタイン王国を救った魔女は、戦いの終結まで見届けることなく王国を去った。姫と王子の熱意に根負けしただけだと言う彼女は、一切の褒賞を拒否すると煙のように姿を消した。

 王としての資質を問われたメンフィスは、まだ幼いレオニダに王位を譲ると、王城の隅に質素な小屋を建て、エルヤとともに隠居生活に入った。
 レオニダは女児にも王位継承権が与えられるよう制度を変えたのち、マティルダを継承順位一位とすると、すぐに王位を譲った。
 リーデルシュタイン王国初の女王は、一夫多妻制を廃止するとともに、婚約者についても厳しい規定を制定した。
 王位継承者がある程度の年齢になるまでは複数の婚約者がいても良いとされる慣習を見直し、婚約者は一人と定めた。婚約の破棄も、婚約者が拒否した場合はすることができない。
 とりわけ最も特徴的なのは、エリザへの誓いと呼ばれる規定だろう。

 王位継承者は婚約者を、触れることすらできない王家の至宝として扱わなければならない。
 婚約者と接するときは白の手袋を着用し、直接触れてはならない。

 手袋を外し触れることができるのは、結婚後、王家の一員としての冠を頭にのせ指輪をはめるときだ。
 唯一無二の王家の宝であるうちは、決して触れることはないのだ。


 シャルロッテはすでに、クリストフェルにとっての宝ではなくなっていたのだ。