シャルロッテから簡単に婚約破棄の報を受けたアルベルトとアンネリーは、会食中に知らせを受けたとだけ言うと、口を閉ざした。重苦しい沈黙が降り、三者の視線が合わないまま足元に落ちる。

「ランヴァルドも、罪な男だ。賢王と呼ばれるカラクリを、実の息子に話しておけば良かったものを……」

 長いため息の後で、アルベルトが呟く。吐き切った息の残りに乗せた言葉は、弱弱しかった。

「実の息子だからこそ、言いづらかったのでしょう」

 同情が混じった声音で、アンネリーが優しく囁く。耳に心地よい柔らかな声が、冷え切った空気をわずかに温める。

「もとより、ランヴァルドから是非にと請われて決めた婚約だ。クリストフェルが突き返すと言うのなら、それで良い。……あれほど幼い頃から一緒にいて、シャルロッテの才能に気づかぬのは、あやつの落ち度だ。シャルロッテが抜けたからと、すぐに傾くような国ではあるまい。臣下には、優秀な人材もいる」

 例えば付き人のパーシヴァルがその筆頭だろう。長いこと外遊に出ている彼の兄メルヴィンも弟に負けず劣らず優秀だ。もちろん、コンラートとリーンハルトも忘れてはならない。今は騎士団団長という立場だが、その気になれば中枢の政にも才能を発揮することができる。

「国のためにと、シャルロッテが望まぬ選択をする必要はない。……お前ももう、王立学校を卒業した身だ。自身のことは、自身で決めれば良い」

 父親の顔でアルベルトが微笑む。しかしその笑みはすぐに消え去り、射貫くような目でシャルロッテを見据えると言葉を続けた。

「しかし、驕ることなく己の能力不足を理解し、優秀な妻を娶りたいと言うクリストフェルは、王としての資格はある。未熟ながらも、賢い男だ。その点については、シャルロッテも異論はないだろう」
「えぇ、もちろんです」
「……浅慮で下した婚約破棄を、真に受けたわけではないのだろう?」

 シャルロッテは微かに頷くと、毅然とした態度でクリストフェルには思い人がいるようだと告げた。

「なんてことを……」

 アンネリーが今にも倒れそうなほど蒼白な顔で言葉を絞り出し、口元を手で押さえる。愛する娘に無体な仕打ちをしたクリストフェルに、呪いの言葉を呟いているようだが、指の隙間から言葉は漏れ聞こえてこない。
 その隣では、アルベルトが微塵も顔色を変えないまま、シャルロッテに瞳だけで問いかけていた。


 アルベルトの青い瞳と、メイの藍の瞳が重なる。
 彼女の目もまた、シャルロッテに問いかけていた。

 一時の熱に浮かされたからと諦めてしまえるほど、クリストフェルに思いがなかったわけではないだろう?

 父の前では隠し通し、言葉にすることのなかった理由が、自然と口を伝う。

「議場の間に入るとき、いつものようにクリストフェル様は手を引いてくれたの。でも、その手には手袋がなかったのよ。……これがどういう意味なのか、メイも知っているでしょう?」

 メイの細い喉から、ひゅっと息を飲み込む音が聞こえた。