反射的に警戒心を高める。

(なぜ、彼女が? まさか、メイヴを……)

 思い出す。彼女は、エルフの騎士であるダレスを操り、ユウトに襲いかかってきた。

 レインは操作系魔導書使い。メリスも同じタイプの魔導書使い。

 ならば……

(メイヴを操ろうとしてるのか?)

 あり得ない話ではない。メイヴはS級冒険者。有名な強者として、彼女を手中に収めようとするのは自然。

(いや、あるいは既に……)

 しかし、メリスの様子はおかしい。

 荒い呼吸? 意識が混濁してる?

「なにか病気か?」

「えぇ、彼女を運ぶのを手伝ってください。ここに休ませるわけには生きません」

「……確かに」とユウトはメイヴの言葉に頷いた。

 この部屋の窓は破壊されている。破壊したのはユウトであったが……

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 「さて、どこから話しましょうか?」

 メリスを別室に運び終えた後、メイヴは深刻そうな表情で口を開く。

「彼女……メリスは私の妹です」

「なにっ!」と思わず、メリスとメイヴの顔を見比べた。

 確かに似ている。

 だが、只人であるユウトからしてみたら、全てのエルフは美しい顔をしている。

 改めて指摘されなければ、似ているかどうか、気にする事すらなかっただろう。

「昨日、彼女が訪ねてきました。数百年ぶりの再会はボロボロの姿でした」

「……そうだったのか」

「教えてください、ユウト。なぜ、あなたの仲間であった2人が妹を襲って来るのですか? それに、なんですか? 魔導書って?」

「……」とユウトは悩んだ。 それから「魔導書とは、これの事だ」と実物を見せる事にした。

「これは!? 料理本……ですか?」

「あぁ……いや、待て。落ち着け。コイツには秘密がある」

 ユウトは全てを語り始めた。 

 魔導書は、神代の物。 神々が王を決めるために7人を争わせるための本。

 レインは、魔導書によってミカエルを操っている事。それから――――

「エルフの里に行った時、俺は彼女と――――メリスと戦っている。互いに魔導書使いとしての戦いだった」

「あの、姿を消していた時に! メリスと!」

「あぁ、おそらく俺との戦いで負け、魔導書の力が低下した所をレインに狙われたのだろう」

 もしも「俺のせいだ……」と付け加えれば、彼女はどんな表情を見せただろうか?

 しかし、彼女は――――

「守ります。どんな方法を使ってでも、その魔導書使い同士の戦いから。私は介入していきます。なのでユウト――――」

 きっと彼女は求めようとしていたのだろう。 妹を守るために魔導書使いであるユウトの力を……だが、その言葉はかき消された。

「うるさい!」とエルフの少女が叫んだ。 いつから目が覚めていたのだろうか?

 メリスが起き上がろうするも、メイヴに制止させられる。

「離して、姉さん……私が姉さんを訪ねたのは気の迷い。もうここに用はないわ」

「そんな事できません。今の体調で外を歩けば死んでしまいます」

「そんなの……回復薬でも持ってきなさいよ。飲みながら私の住み家に帰るわ」

「止めておけ」とユウト。 ギロリとメリスは睨みつけるが、彼は動じない。

「レインたちは、ここを去った。だが、彼女は弓兵だ。何日も潜んで、動かず、お前を矢で狙い続けているぞ」

「――――狙っているのはアナタも同じでしょ!」

「俺が? 俺から狙う理由はないさ」

「本当かしら? 誰だって王さまに成りたいものじゃないの?」

「ふん、生憎さまだ。王者なんて言葉、俺には呼ばれ慣れている」

「――――」と訝がるメリスだったが、メイヴがフォローを入れる。

「少なくとも、この家は安心――――いや、先ほど賊の侵入を許しましたが、それでも防犯設備には自信があります」

「姉さん。よく何百年も会ってない妹を信用できるわね。私が何も企んでいないと――――」

「妹を警戒する姉なんて存在しません」

 それは有無を言わない迫力があり、メリスも黙るしかできなかった。

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 ・・・・・・

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 ユウトたちと遠く離れた場所。ここではないどこか。

 暗闇の中で、2人の男が対峙していた。男たちの手には魔導書が輝いていた。

 1人は『嫉妬』の魔導書

 1人は『傲慢』の魔導書

 どうやら、『嫉妬』と『傲慢』の戦いが始まる直前のようだ。