それは黄色だった。 黄色いうどん? それはなんだ?

 その正体は、たまごの黄色。 このうどんの名前は――――

『かま玉うどん』

 釜揚げしたうどんにたまごを絡めた……だから、かま玉うどんだ。

 熱々のうどん。たまごのとろみを加え、汁で味を整えてられている。

 さらに次――――黄色いうどんに対して、運ばれてきたのは白いうどん。

「いや、まて。うどんって最初から白じゃないのか!」なんて声も聞こえてきそうだが、このうどんの名前は――――

『おろしぶっかけ』

 白いうどんの上に乗っているのは白い大根おろし。

 白と白の倍プッシュだ。 そしてレモン。

 甘さと酸っぱさ、爽快感が増している。

 止まらない。

 うどんの種類。 この辺りになってくるとユウトも

「そういう事か……」と気づきを得た。

(通常のかけうどん、冷やした冷かけ、ぶっかけ……これを基本にバリエーションが止まらない)

 味付けされた牛肉。あるいは豚肉。他にも、おあげにワカメ……

 天ぷらなのどの組み合わせによって――――終わらない。

 机の上には、うどんが並べられていく。 それはユウトが食す速度よりも、店主がうどんを作っていく速度の方が多い証拠。

「うん、これは――――いくらでも食べれそうだ」

 改めて、うどんという食べ物を確認すると、喉を通った瞬間、さっぱりとしたつゆと麺の相性の良さに感動すら覚える。

 麺をすする音と比例して食べ進める速度が上がっていく。

 胃袋が膨らんでいる感覚。 飢餓感も失われていく。

 彼の食欲は魔法の狂乱のようだ。

 うどんは、まるで魔法の風に乗ってユウトの口に吸い込まれる。

 きっと――――

 もはや、彼の胃袋は底知れぬ深淵と化す。

 もしも、周囲に観客がいたのならば、その人々は異様な光景に戸惑うことになるだろう。しかし、それと同時に訪れるのは感動……

 魔法の嵐の中に立ち会っているかのような興奮を感じるに違いない。

 店主がうどんを茹でる速度をユウトの食事速度は完全に上回っている。

 ついには彼の目前には、料理が並ぶことはなくなり――――

「ごちそうさま」を食事を終えた。 完食である。

「……マジかよ」と呟くのは店主。その表情から勝算があった事が窺える。

「料理を出す速度。料理の種類。この2つを利用すれば、王者にも勝てる計画だったのだがな」 

「いや、美味しかったよ」

「そんな話はしてないのだが……そう言われると報われる気持ちになるぜ」

 そんな話をしていると、ユウトの体が輝き出す。

 魔導書『暴食』の効果。 記された料理を食すと身体能力と魔力が強化していく。
 
 だが、その日は奇妙な感覚にユウトは襲われた。

「なんだ、これ? 情報が流れて来る…… 誰か戦っているのか?」

 ユウトは駆け出した。

「おい! どうした王者?」と残された店主は叫ぶ。

「わからない。でも、誰か戦ってるみたいなんだ」

 それから思い出したように――――

「また、飯を頼むぜ」と外を駆けだした。

 魔導書が伝えて来る情報。それはユウトの探知魔法よりも範囲が広いらしい。

 強化した体を全力疾走。 人間離れ――――少なくとも、魔法使いの身体能力ではない。

(近い……そして、わかってきた。 魔導書使い同士が近くで戦闘していたから、魔導書に反応があった)

 つまり、この付近に魔導書使いが2人いるという事になる。

 一体だれか? なぜ、戦っているのか?

 その疑問が解けるように、ユウトは探知魔法を広範囲に使用する。

(いる……本当に、こんな町中に魔導書使いが。これは……逃走中なのか?)

 駆け抜けていく通路。すれ違う住民は、その速度に驚く。

 だんだん、奇妙な事に気づき始めるも――――ユウトは、その可能性を頭から押し出した。

 今、進んでいる通路は、よく知っている道。

 すれ違う住民たちも、何度か話した事のある顔ぶれ……

 ならば、目的地も――――きっと、よく知っている場所。

 それをユウトが強引に頭から振り払うも――――ついに目的地に到着してしまった。

 そこは――――

「ここは……メイヴの家?」