「本当にいいのか、エイム? 俺と一緒に帰って?」

「え? ご主人さま、何の事ですか?」とエイムは激しく動揺した。

「わ、私、なにか仕出かしました!? 問題があれば直すのでメイドとして雇用継続を!」

(そもそも、メイドとして雇用していたわけじゃなかったような……) 

「いや、エルフたちに、あんなに神々しい姿を見せてたから……あのまま、エルフの里に神様として残った方がいいのじゃのか?」

「まさか、まさかです。信仰に距離は関係ありません。今もほら、耳を澄ませてください。子供たちの声が聞こえてきます」

「……なるほど(同意を求められても、俺には聞こえるはずもないのだけれど)」

 そんなやり取りとしてユウトとエイムだった。

 先行していたメイヴから「2人とも、町が見えてきましたよ!」と声が聞こえてきた。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 ――――翌日――――

 前日、町に戻ったその足で食堂の店主に料理の調理法を伝えてある。 

 「既に完成している頃合いだろう……よし、行くか!」

 時計を確認したユウトは着替えて、食堂に向かう。

 今回は1人だ。 前回の二郎系ラーメンのように、メイヴとエイムを連れて行った結果、3人分食べる事になった。

「今回は同じ失敗はおかさない!」と1人で食堂に挑む。

 店に入ると――――

「おう、既に準備は終わっているぜ」と店主が待ち構えていた。

「それじゃ、順番に頼むよ」と答えると、すぐに料理が運ばれてきた。

「想像以上に早いな」と驚いた。

 その料理は白かった。 透き通った汁に白く太い麵。

 その上には、薄く切られたネギ。それに、天かすが散りばめられている。

「コイツはうどんだ。 かけうどん……熱いから気をつけな」

 店主の説明を軽く受ける。  

 鰹節や昆布などのベースに作られた汁――――ダシと言うのか。

 その香りは食欲をそそり、嗅覚から空腹の世界へ誘っていく。

「それじゃ、いただきます」

 ユウトは両手でお椀を取ると、ゆっくりと口元に運ぶ。どこか警戒しているように見えた。

 最初に感じたの熱さだった。それから、かけうどんのつゆの味わいが口いっぱいに広がる。

 それはまろやかでありながらも、しっかりとした旨味が感じられる。

「麺にコシがある……そう表現するらしい」

 思わず、ユウトは朗らかな笑みを浮かべた。 

 モチモチとした食感が特徴であり、弾力はしっかりとある。

 それでいて喉ごしの良さがあり、噛むたびに心地よい食感を楽しむ。

 優しく箸を絡め、かけうどんを――――その麺をすくい上げる。

「麺と絡み合う(ダシ)。そこには、豊かな風味と程よい塩味――――それでいて少しの甘みもある。複雑な味がうどんとの相性が抜群だ」

 麺のしなやかに伸びは面白い。 つゆに絡まりながらも一本一本がしっかりと味が主張をしてくる。口に運ぶ瞬間、舌の上で優雅に踊る――――踊っているように弾力が口内で広がるのだ。

 かけうどんの滑らかさとモチモチとした食感が味わいを一層引き立てる。

一口、また一口と麺を頬張って行くとユウトは心地よい満足感に包まれる。

 食べ進むたび、心地よい満足感が高まっていく感覚。

 自然と穏やかな笑顔を浮かべる自分にユウトは気づく。

 かけうどんを食べ終え、最後の一滴まで残さないと、汁を飲み干した。

「ふぅ……」と思わず満足した溜息をつきながら、お椀をそっと下ろす。

「美味しかった……これがかけうどんの味か!」

「おう、次はコイツを試して見な」と店主は、新しいどんぶりを机に置いた。

「……さっきのかけうどんと同じに見えるのだが?」

「よく見て見な」と店主の声だったが、

 それでもユウトには、違いがわからなかった。

「ん~ 見た目でわかる違いなのか? とりあえず――――」

 そう言うとユウトはどんぶりを掴んだ。 その瞬間に違いが分かった。

「温度? 先ほどと違って冷たい……のか? そう言えば、湯気が立っていない!」

「気づいたか? コイツは冷かけだ」

「……」と緊張しながら、麺を口にする。すると――――

「むっ! 弾力……麺のコシが増している!」

 先ほどのかけうどんでも、麺の弾力が楽しめた。

 うどんの麺。 それは茹でた麺を水でしめた瞬間に最高のコシを有する事になり、時間の経過と共に失われていく。

 それが常に温度が低めの汁のために、コシの強度低下が緩やかになっている……かもしれない。

 麺だけではない。 

 (ダシ)から感じられたのは、心地よい冷たさ。

 冷たさは、すなわち爽やかさである。麺を口にするたびに、その表面に絡んだ汁が同時に入り、体全体に清涼感が広がっていく。

(つゆがさっぱりとした味わい……これは、(ダシ)の酸味を強めているのか?) 

 ユウトは、どんどんと口に運んでいく。

 先ほどのかけうどんで得たはずの満足感。それがありながら、さっぱりとした味わいは食欲を復活されてくれた。

 2杯目のどんぶりを空にして机に置くと――――

「これも試してみな」と店主が並べたのは

 天ぷらの山。 

 野菜のかき揚げ、えび天、とり天、ちくわの磯辺あげ、かぼちゃの天ぷらに唐揚げまである。