いつも通り、ユウトは歩きながら魔導書の翻訳をしていた。

「そう言えば……他の連中も同じように、魔導書を翻訳させているならどうやって?」

 ユウトは魔法使いとして、多くの知識を有していた。

 魔導書に書かれている文字は、古代文字の部類。 翻訳するには、専門の教育を受けてなければ難しい……はず。

「俺みたいに、自分で訳せる奴もいるだろうけど……協力者がいる?」

 魔導書を翻訳できる者。世界で何人いるだろうか?

 ユウト自身が専門家とも言える高度な教育を受けているからこそ、想像ができる。

「そこから、魔導書使いの正体を暴けれる可能性が……」

 そんな事を考えているとエルフの里が見えてきた。

「ん? なんだか人が集まってる。少し騒がしいな」

 入口にはエルフたちが集まっていた。 その中の1人、ユウトの姿を見ると飛び出してきた。

 その人物はメイヴだ。

「メイヴ、何かあっ――――」と最後まで言えなかった。

 彼女が抱きついて来たからだ。

「ちょ、急に何を苦しい……苦し……きゅ~」と呼吸ができなくなっていった。

「よかったです。無事だったのですね、ユウト。実は――――ユウト?」

 そこでメイヴは、自分の腕の中でユウトが意識を失っている事に気がついた。

・・・

・・・・・・   

・・・・・・・・・

「……ここは?」

「あっ、目を覚ましましたかユウト。貴方は気を失っていたのですよ」

「気を失って……えっと、何があった? 記憶が曖昧で……」

「わかりません」とメイヴはハッキリと言った。

「あなたは、1人で里の外に出かけて、戻って来ると、いきなり倒れたのです」

「そうだったのか……そう言えば、そんな記憶もあるような、ないような」

「そんな事よりも、大変な事が起きました。 投獄されていたはずのダレスが脱獄したそうです!」

「ん? あぁ、それは……なんていうか、大変だね」

「……」とメイヴはジト目でユウトの様子を窺ってきた。

「その反応、何か知ってません?」

「いや、知らないよ」

「……そうですか。とりあえず、里長に知らせてきます」

「うん、行っておいで」

「やっぱり、何か知ってません?」

「いや、知らないよ」とやり取りを繰り返した。

 1人になったユウト。天井を見上げながら

「さて、これからどうするか?」

 なんて呟いた。

 敵は7人。 いや……7人は敵なのか?

 少し考える。 7人と戦う必要、俺にはあるのか?

「俺が王になりたい理由――――あるか?」

 自問自答する。 金、権力、名声……

「意外だ。そういう欲が俺にないのか? 冒険者って、そういう欲望を叶えるための職業じゃなかったのか?」

 呆然とする。 なんのために冒険者をやっているのか?

 目的とか、目標とか、そういうのがなく冒険者をやっていた?

「――――いや、1つだけあったな」とユウトは、荷物から魔導書を取り出した。

「暴食……俺らしい魔導書だ。 なんのために冒険者をやっていたのか思い出したぜ」

 パラパラとページをめくる。 まだ翻訳が終わってない部分。そこに書かれているであろう料理に思いを馳せる。

「俺は命を賭けた戦いに勝って、食べる飯が好きだった。それだけ、ここまで来たんだ」 

「フッ」とユウトは、思わず笑った。

 飯が美味いから、危険な事をする。

 強敵に勝った後の飯が美味いから戦う。

 そんな戦闘中毒者や、戦闘狂みたいな側面が自分にあった事が面白かった。

「今は早く町に戻って、店主に料理を作って貰いたいな」

 そんな事をユウトは呟いた。

・・・

・・・・・・

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 一方その頃――――

「まさか、このタイミングで襲って来るほど、節操がない女だとは思わなったよ」

 そう言うのは『色欲』のメリスだ。 場所は、彼女の住み家。

 負けたばかりの彼女を狙っての敵襲を受けていた。 その相手は――――

「こっちも想定外よ。アンタがユウトに負けるなんてね」

 敵の正体は『怠惰』 つまり、レイン・アーチャーだった。

「まぁ、ラッキーだわ。同タイプの魔導書使いを最初の頃に潰せるなんてね!」

 レインは魔導書を開いた。 それと同時にメリスも魔導書を開く。

 互いに魔法を発動。地面に魔法陣が出現して――――

「行け、ミカエル!」

「来なさい、ダレス!」

 それぞれ、支配下にある戦士が召喚された。