「戦闘によって成長している」と呟いたのはユウトだった。
(ダレスとメリス……2人は連携を深めるため、戦闘中に様々な合図やサインを使ってコミュニケーションを取り始めている)
ユウト・フィッシャーという強敵を倒すためだ。
両者のコンビネーションの精度が上がっている。 例えば――――
ダレスが攻撃の準備をしている際、メリスは彼に手を挙げる合図を送る。
それは特定の魔法を――――『蒼き炎』を攻撃として発動する準備の合図だった。
ダレスはそれに合わせて攻撃を放つタイミングを見極める。
また、メリスは戦闘中にユウトの動きや弱点を観察し、ダレスに情報を伝える。
狂戦士と化したダレスであったが、それでも狂気から残された頭脳は優秀だ。
それを元に戦略を練り、敵であるユウトに対して的確な攻撃を仕掛ける。
(完全に冒険者が行う前衛と後衛の動きだ。まさか冒険者である俺が、そんな敵を相手をする……なんてな)
このように、ダレスとメリスのコンビは、お互いの力を最大限に引き出し合うようになっていた。それは戦闘において圧倒的な存在感を放つ。
彼らの連携はまさに一心同体。息の合った舞いのようであり、敵であるユウトに対して恐怖と敬意を抱かせるのだった。
しかし――――
「ただ、逃げ回っていただけじゃない。目的の物は入手済だ」
ユウトの声はダレスにも、メリスにも届いていないだろう。
背後に迫るダレス。 ユウトの背中を斬りつけて来る。
回避する動き。それに紛らわして―――――
「……え?」と小さく口を開いたのは離れた位置にいたメリスだった。
彼女の腹部、血が染み出ている。
「どうして? 私の防御魔法は?」
そう呟く彼女。 本体であるメリスが受けたダメージに合わせて、ダレスの動きも大きく乱れる。
『炎剣』とユウトが放った炎の斬撃をダレスは浴びた。
崩れ落ちる前衛。 すぐさま反撃できる負傷ではないだろう。
メリスは傷ついたままで魔力をダレスに回している。
(……回復薬《ポーション》を持ってない? 冒険者じゃないから準備不足だったりするのか?)
ダレスは戦闘不能状態だ。 ユウトは彼を無視して、メリスの前に立つ。
「もう止めておけ。それ以上の魔力行使は命に関わるぞ」
「くっ!」とユウトを見るメリス。 いまだ、敵意は衰えていないようだ。
「どうやったの? どうやって私の防御魔法を貫いたの?」
「どうやって……? まさか、気づいていないのか?」
「なにを……言っているの?」
「俺は、最初に砕かれた盾の破片を拾い集めて、投げつけただけだ。お前の魔法――――防御効果が高いのは魔法に対してだけだろ?」
「なっ!」と彼女は驚いた。
それは、自身の魔法の性質を敵に暴かれた驚きというよりも、自分自身でも知らなかった魔法の弱点を指摘されたような反応。
そもそも彼女の魔法 『蒼き炎』は、魔法使いとして厳しい鍛錬や研究、儀式によって身に付けた物ではない。
彼女が持つ魔導書によって身に付けたもの。
それも操作系能力こそ本命であり、この魔法を使っての実戦経験が少ない。
だから、知らなかったのだ。 自身の防御魔法は物理攻撃には弱いということを――――
「まさか、こんな所で私が……」
「……実戦なのに、防具を仕込んでいなかったのか? 回復薬も持っている様子はない――――」
ユウトは彼女が戦闘において素人に近い事に気づいた。だから、
「飲めよ」と回復薬を投げて渡した。 それも2本。片方はダレス用だろう。
「何これ……? 毒で自決しろってこと?」
「そんなわけないだろう。戦いは決着した……後ろを向いて帰ればいい」
「これを飲んだ私たちが再び攻撃してきたら、どうするつもりなのかしら?」
「もう一度やっても勝つのは俺だ。準備不足は露呈した。それに弱点もわかった」
「――――後悔するわよ」とメリスは、手に持っていた回復薬を飲んだ。
その直後に彼女に変化が起きる。 彼女が手にしていた魔導書に火が付いたのだ。
「なにっ!」と驚くユウト。 しかし、彼女は平然と――――
「本当に何も知らないのね。魔導書使い同士の戦いでは、負けた方の情報力が勝った方に吸収されるのよ」
その通りだった。彼女の魔導書だけではなく、ユウトの魔導書に変化が起きる。
燃える魔導書から発せられる何か、未知の力を吸収していくように、光りを集めていく。
「今回の損害は大きかったわ。次は勝つけど……」
そう言ってメリスはダレスを引き連れて帰って行った。
その背後をユウトは見送りながら、
「しまった。もう少し、魔導書について聞ければよかったのだが……」
ユウト・フィッシャー
『暴食』のユウト 魔導書使い同士の初対決は、彼の勝利で幕を閉じた。
(ダレスとメリス……2人は連携を深めるため、戦闘中に様々な合図やサインを使ってコミュニケーションを取り始めている)
ユウト・フィッシャーという強敵を倒すためだ。
両者のコンビネーションの精度が上がっている。 例えば――――
ダレスが攻撃の準備をしている際、メリスは彼に手を挙げる合図を送る。
それは特定の魔法を――――『蒼き炎』を攻撃として発動する準備の合図だった。
ダレスはそれに合わせて攻撃を放つタイミングを見極める。
また、メリスは戦闘中にユウトの動きや弱点を観察し、ダレスに情報を伝える。
狂戦士と化したダレスであったが、それでも狂気から残された頭脳は優秀だ。
それを元に戦略を練り、敵であるユウトに対して的確な攻撃を仕掛ける。
(完全に冒険者が行う前衛と後衛の動きだ。まさか冒険者である俺が、そんな敵を相手をする……なんてな)
このように、ダレスとメリスのコンビは、お互いの力を最大限に引き出し合うようになっていた。それは戦闘において圧倒的な存在感を放つ。
彼らの連携はまさに一心同体。息の合った舞いのようであり、敵であるユウトに対して恐怖と敬意を抱かせるのだった。
しかし――――
「ただ、逃げ回っていただけじゃない。目的の物は入手済だ」
ユウトの声はダレスにも、メリスにも届いていないだろう。
背後に迫るダレス。 ユウトの背中を斬りつけて来る。
回避する動き。それに紛らわして―――――
「……え?」と小さく口を開いたのは離れた位置にいたメリスだった。
彼女の腹部、血が染み出ている。
「どうして? 私の防御魔法は?」
そう呟く彼女。 本体であるメリスが受けたダメージに合わせて、ダレスの動きも大きく乱れる。
『炎剣』とユウトが放った炎の斬撃をダレスは浴びた。
崩れ落ちる前衛。 すぐさま反撃できる負傷ではないだろう。
メリスは傷ついたままで魔力をダレスに回している。
(……回復薬《ポーション》を持ってない? 冒険者じゃないから準備不足だったりするのか?)
ダレスは戦闘不能状態だ。 ユウトは彼を無視して、メリスの前に立つ。
「もう止めておけ。それ以上の魔力行使は命に関わるぞ」
「くっ!」とユウトを見るメリス。 いまだ、敵意は衰えていないようだ。
「どうやったの? どうやって私の防御魔法を貫いたの?」
「どうやって……? まさか、気づいていないのか?」
「なにを……言っているの?」
「俺は、最初に砕かれた盾の破片を拾い集めて、投げつけただけだ。お前の魔法――――防御効果が高いのは魔法に対してだけだろ?」
「なっ!」と彼女は驚いた。
それは、自身の魔法の性質を敵に暴かれた驚きというよりも、自分自身でも知らなかった魔法の弱点を指摘されたような反応。
そもそも彼女の魔法 『蒼き炎』は、魔法使いとして厳しい鍛錬や研究、儀式によって身に付けた物ではない。
彼女が持つ魔導書によって身に付けたもの。
それも操作系能力こそ本命であり、この魔法を使っての実戦経験が少ない。
だから、知らなかったのだ。 自身の防御魔法は物理攻撃には弱いということを――――
「まさか、こんな所で私が……」
「……実戦なのに、防具を仕込んでいなかったのか? 回復薬も持っている様子はない――――」
ユウトは彼女が戦闘において素人に近い事に気づいた。だから、
「飲めよ」と回復薬を投げて渡した。 それも2本。片方はダレス用だろう。
「何これ……? 毒で自決しろってこと?」
「そんなわけないだろう。戦いは決着した……後ろを向いて帰ればいい」
「これを飲んだ私たちが再び攻撃してきたら、どうするつもりなのかしら?」
「もう一度やっても勝つのは俺だ。準備不足は露呈した。それに弱点もわかった」
「――――後悔するわよ」とメリスは、手に持っていた回復薬を飲んだ。
その直後に彼女に変化が起きる。 彼女が手にしていた魔導書に火が付いたのだ。
「なにっ!」と驚くユウト。 しかし、彼女は平然と――――
「本当に何も知らないのね。魔導書使い同士の戦いでは、負けた方の情報力が勝った方に吸収されるのよ」
その通りだった。彼女の魔導書だけではなく、ユウトの魔導書に変化が起きる。
燃える魔導書から発せられる何か、未知の力を吸収していくように、光りを集めていく。
「今回の損害は大きかったわ。次は勝つけど……」
そう言ってメリスはダレスを引き連れて帰って行った。
その背後をユウトは見送りながら、
「しまった。もう少し、魔導書について聞ければよかったのだが……」
ユウト・フィッシャー
『暴食』のユウト 魔導書使い同士の初対決は、彼の勝利で幕を閉じた。