屈強な魔物ですら倒し切るユウトの魔法。 直撃したダレスは無事ではすまない。

 急いで容体と確認すると――――

「よかった。息はある」

 どうやら、事前に服用していたレインの薬。それによる強化が、彼の命を救ったようだ。

「メイヴ、回復薬(ポーション)を――――ありがとう」と離れた場所に置いていた雑嚢から、メイヴが投げて渡してくれた。

「呼吸がきつくて飲めないか。仕方がない」

「応急処置だ」と言ってユウトは回復薬をダレスの体にかけた。

 回復薬は込んで体内に取り入れることで、超常的な回復を可能とさせる。

 だが、それだけではない。 体から浸透させる事で一定の回復能力がある。

 「呼吸が落ち着いてきた。飲め……落ち着いて、ゆっくりな」

 回復薬の超回復力。もはや、火傷の跡も残っていない。

「よし、これで大丈夫だろ」とダレスを横に寝させた。

 これで決着……とはいかなかった。

 息を吹き返したダレス。体を起こすと――――

「何をしている! コイツは聖樹を傷つけた者だ。それに、コイツは神聖な決闘で規則を破ったぞ!」

 無茶苦茶な理屈だ。

 元々、『本当に、ユウトが聖樹を傷つけた者か?』

 それを決めるための決闘ではなかったか? 決闘の規則を破って魔法を使ったのはダレスではないか?

 周囲のエルフたちはダレスの言葉に耳を傾けない。 

 それにエルフたちの代表である里長が、

「ダレス、もう止めろ。誰もユウトどのが罪を行ったとは思っておらん!」

 そう声を張り上げた。

 一番偉い者の宣言。これで解決となる。

 ――――そのはずだった。

 しかし、観客のエルフをかき分けて、後ろから大柄のエルフたちが前に出てきた。

「なるほど、ダレスの取り巻き……俺でもわかる。コイツ等はエルフの荒くれ者だな」

「なにを余裕ぶって! お前でもこの人数を相手に無事では帰れまい!」

「確かに、アイツ等は装備が良い。 鎧まで着込んで戦争でもするつもりか?」

「お前を殺すのに、そのくらい必要だと判断した!」

「甘いな」

「――――なに?」

「お前、忘れているのか? こうなったら、俺より強い奴が本気で動くぞ?」

「なに……お前よりも強い奴……だと?」

 次の瞬間だ。屈強なエルフの戦士たち。 

 それらが

「うぎゃああああああ!」と悲鳴をあげて宙を舞った。

「S級冒険者 メイヴ・ブラックウッド。この里を出る以前はわからないが……今の彼女は俺の100倍は強いぞ?」

 20人近くはいただろう。その屈強な武装したエルフの男たちは、1人の女性によって――――それも素手で、倒されていった。

「どうする、ダレス? 今度は俺じゃなくて、メイヴと戦いかい?」

「――――」と彼は、頭が真っ白になっているようだ。何もしゃべれなくなっていた。

 そんな時だった。 突然、眩い光に周囲が染められた。

 その白い光の中、1人の人物が浮かび上がった。

『静まれ、我が子供たち』

 その人物は口にした。 言葉には、強い神意が込められている。

 神意――――ユウトもダンジョンで神のような存在と出会ったことがある。

 人間に逆らえない強い言葉。 その人物――――いや、神はこう続けた。

『我は聖樹の化身なり、我を傷つけた者は――――こやつ、ダレス・ブラックウッド。違いないな!』

「あ……あわ……」と神に名指しされて、言葉を失ったダレス。

『心配するな。皆は我の子なり――――子を罰する親はいない。その処遇は汝らで定めるが良い』

 神はダレスを無罪放免とした。

 しかし、その処分はエルフ同士で話あって行えばいいと。

『これにて決着とする。後は自由にするがよい、里長よ』

「は、ははぁ!」と里長は頭を下げた。 次の瞬間には光は消え去り、聖樹の化身も消えていた。

「これでどうでしょうか? ご主人さま」とユウトの背後から幼子の声が聞こえてきた。

「……あの神様、お前なのか? エイム?」

「はい。ここは、わたしの故郷ですので、悪い子にはきつめにお仕置きしてみました」

・・・

・・・・・・

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 これで全て解決。 宴の続き……とはならない。

 エルフの神が顕現したのだ。 里長は、別のエルフたちが住む里へ知らせを送る。

 周辺のエルフの代表者たちが集まり、大会議となるだろう。

 つまり、大混乱だ。

「すまない」とメイヴ。

「ユウトは、何も悪くないのに、こんな騒動に巻き込む形になってしまって」        

「いや、気にすることはないさ。それより大丈夫か? 自分の故郷が大騒ぎになって」

「私は大丈夫だ!」とメイヴは言葉とは裏腹に力なく答えた。

「いや、とても大丈夫そうには見えないよ。少し休みな」

「そうか……自分ではわからないものだな。少し休ませてもらうよ」

 そう言ってメイヴは部屋を出て行った。

 それから、しばらくしてユウトは――――

「行くか」と呟いて、魔導書を取り出した。 

 その魔導書は輝いている。そのページには地図が増えていた。