この世界には『禁欲森人は酒をたしなむ程度』という言葉がある。
エルフは禁欲的で、あまり酒も飲まないと意味で使われるが、それは誤法だ。
実はドワーフ視線の言葉であり、
『大量の酒を飲むドワーフから見れば、エルフはそれほど酒を飲まない』
過剰に優れた者たちから見たら、次に優れた者は必要以上に劣って見えてしまうので気をつけよう。
そういう意味であり……要するにエルフは酒を普通に飲むということだ。
太陽と大地の恵みである酒は、彼らにとって禁欲対象ではない。
つまり――――宴は普通に行われる。
「さぁさぁ、婿殿。こちらの酒を試してみてください」
メイヴと共に主賓席に座らされたユウトは、酒を薦められた。
「ありがとうございます」と薦められたまま飲む。
琥珀色をした液体は光を透かすように輝きを見せていた。
これは蜂蜜酒だった。 舌に広がるのは、蜂蜜の甘みと芳醇な風味。
まろやかな口当たりが味蕾を包み込みこんでいく。
「うまい」とユウトは呟いた。
舌の上で馴染むように甘さがひろがっていた。まるで幸福の蜜が心を満たすかのようだった。
それに加えて、微かに感じる花の香りが口の中に広がり、心地よい余韻を残している。
「蜂蜜酒は造るのに数週間から数か月の時間が必要です。婿殿のお土産である蜂蜜から酒が作れるのは、また日が必要となります。完成したらお知らせしますので、また飲みに来て下さい」
「これは、ありがとうございます」と頭を下げると、相手が離れていくのを見届けると「ふぅ……」と文字通り、一息入れる。
「慣れないものだな。儀式的なものとは言え、『婿殿』なんて呼ばれると」
「えぇ仕方がありませんよね。儀式的なものとは言え」と隣に座っているメイヴはニコニコとしていた。
嘘である。 彼女は嘘をついている。
エルフの宴。
それには儀式的な意味も大きく、男女で里に来た者を夫婦のように扱う。
そう嘘をつくことによって、周囲から埋めていく。 既成事実を作っていたのだ。
「しかし、こういう場では肉料理もあるんだな」
「エルフが肉を食べるのが意外ですか? 私は普通に食べてますよ」
「確かに……」と思い出す。 メイヴと一緒に食事する機会は多い。
彼女は肉を食べるのに抵抗はなさそうだった。
並べられたエルフ料理――――
『エルフの野菜ピンチョス』
彩り鮮やかな野菜やハーブ。それにハムやチーズに串に刺して、熱を入れた料理。 小さく切ったパンに刺している物もある。
『魚介のスモークサラダ』
サーモンやエビに貝などの魚の燻製――――エルフの里に運ぶために魚介の燻製は必須なのかもしれない。 エルフの里自慢の野菜サラダに色鮮やかに盛り付けされている。
『エルフのキノコ包み焼き』
エルフの森で収穫されたばかりなキノコたちは新鮮だ。 それを葉物野菜で包み、さらにそれをベーコンやハムで包み焼かれている。
『エルフのハーブロール』
これが宴で出される料理のメインなのだろう。大胆に、それでいて美しく大皿に盛りつけられている。
きっと、エルフの庭園や草原で栽培されている物。 チキンや豚肉、牛肉などの肉類の下味にハーブにふんだんに加えられている。
信じられないことに、それらの肉が肉で巻き付けられていた。
まさに肉々しい料理――――本当にエルフ料理か?
なんて疑いたくもなった。
さて――――
美食家とも言えるユウトですら、初見の食材がいくつも使われている料理。
(まさしく、本場のエルフ料理。どんな味がするのか、想像もできない期待感がある)
ワクワクと隠せず、料理に手を伸ばそうとするユウトであったが――――
「待て! この宴は、中止だ!」と叫び声が響いた。
「なんだ! なんだ!」と周囲は騒ぎ出す。それを制止させたのは、
「皆の者、鎮まれ!」と一括したのは、里長であった。
ユウトとメイヴの前では、まるで好々爺のようだった里長であったが、今は厳格な長の立ち振る舞いであった。
「今宵は客人を歓迎する宴であるぞ! それ相当の用件であるか、ダレス!」
里長が言う通り、宴の中止を叫んだのはダレスだった。 次の里長候補とあってか、武装したエルフたちが数人、彼の背後に従っていた。
「然り! ですが、今は火急のご用件! この里の守護神であられる聖樹が穢されました!」
「――――なに!」と里長も目を見開いた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
エルフの里。その入り口にある聖樹――――外部からの侵入者を拒絶する意思を表すようにであり、その幹には複雑な紋様が彫り込まれていた。
「その聖樹が穢された」というダレスの言う通り、その紋章が荒く削られている。
(刻まれた紋章――――紋章と魔法には繋がりが深いものだが、これは儀式的、宗教的な意味合いが強くて、魔法的な効果は薄いのか?)
こういう事に関して、本職である魔法使いのユウトの見立てである。
まず、間違いはないだろう。
しかし、魔法的、魔術的な意味がなくとも――――エルフにとっては、重要な意味がある。
それを傷つけた犯人を許さないだろう。
だが、ダレスが声を張り上げた。
「このような仕業、我らが里で行う者はおらず! ならば、疑うべきは1人のみ!」
彼は抜いた剣をユウトに向けていた。
「言葉による真偽は無用! 己が無実を証明したければ、今から俺を立ち会うがいい!」
エルフは禁欲的で、あまり酒も飲まないと意味で使われるが、それは誤法だ。
実はドワーフ視線の言葉であり、
『大量の酒を飲むドワーフから見れば、エルフはそれほど酒を飲まない』
過剰に優れた者たちから見たら、次に優れた者は必要以上に劣って見えてしまうので気をつけよう。
そういう意味であり……要するにエルフは酒を普通に飲むということだ。
太陽と大地の恵みである酒は、彼らにとって禁欲対象ではない。
つまり――――宴は普通に行われる。
「さぁさぁ、婿殿。こちらの酒を試してみてください」
メイヴと共に主賓席に座らされたユウトは、酒を薦められた。
「ありがとうございます」と薦められたまま飲む。
琥珀色をした液体は光を透かすように輝きを見せていた。
これは蜂蜜酒だった。 舌に広がるのは、蜂蜜の甘みと芳醇な風味。
まろやかな口当たりが味蕾を包み込みこんでいく。
「うまい」とユウトは呟いた。
舌の上で馴染むように甘さがひろがっていた。まるで幸福の蜜が心を満たすかのようだった。
それに加えて、微かに感じる花の香りが口の中に広がり、心地よい余韻を残している。
「蜂蜜酒は造るのに数週間から数か月の時間が必要です。婿殿のお土産である蜂蜜から酒が作れるのは、また日が必要となります。完成したらお知らせしますので、また飲みに来て下さい」
「これは、ありがとうございます」と頭を下げると、相手が離れていくのを見届けると「ふぅ……」と文字通り、一息入れる。
「慣れないものだな。儀式的なものとは言え、『婿殿』なんて呼ばれると」
「えぇ仕方がありませんよね。儀式的なものとは言え」と隣に座っているメイヴはニコニコとしていた。
嘘である。 彼女は嘘をついている。
エルフの宴。
それには儀式的な意味も大きく、男女で里に来た者を夫婦のように扱う。
そう嘘をつくことによって、周囲から埋めていく。 既成事実を作っていたのだ。
「しかし、こういう場では肉料理もあるんだな」
「エルフが肉を食べるのが意外ですか? 私は普通に食べてますよ」
「確かに……」と思い出す。 メイヴと一緒に食事する機会は多い。
彼女は肉を食べるのに抵抗はなさそうだった。
並べられたエルフ料理――――
『エルフの野菜ピンチョス』
彩り鮮やかな野菜やハーブ。それにハムやチーズに串に刺して、熱を入れた料理。 小さく切ったパンに刺している物もある。
『魚介のスモークサラダ』
サーモンやエビに貝などの魚の燻製――――エルフの里に運ぶために魚介の燻製は必須なのかもしれない。 エルフの里自慢の野菜サラダに色鮮やかに盛り付けされている。
『エルフのキノコ包み焼き』
エルフの森で収穫されたばかりなキノコたちは新鮮だ。 それを葉物野菜で包み、さらにそれをベーコンやハムで包み焼かれている。
『エルフのハーブロール』
これが宴で出される料理のメインなのだろう。大胆に、それでいて美しく大皿に盛りつけられている。
きっと、エルフの庭園や草原で栽培されている物。 チキンや豚肉、牛肉などの肉類の下味にハーブにふんだんに加えられている。
信じられないことに、それらの肉が肉で巻き付けられていた。
まさに肉々しい料理――――本当にエルフ料理か?
なんて疑いたくもなった。
さて――――
美食家とも言えるユウトですら、初見の食材がいくつも使われている料理。
(まさしく、本場のエルフ料理。どんな味がするのか、想像もできない期待感がある)
ワクワクと隠せず、料理に手を伸ばそうとするユウトであったが――――
「待て! この宴は、中止だ!」と叫び声が響いた。
「なんだ! なんだ!」と周囲は騒ぎ出す。それを制止させたのは、
「皆の者、鎮まれ!」と一括したのは、里長であった。
ユウトとメイヴの前では、まるで好々爺のようだった里長であったが、今は厳格な長の立ち振る舞いであった。
「今宵は客人を歓迎する宴であるぞ! それ相当の用件であるか、ダレス!」
里長が言う通り、宴の中止を叫んだのはダレスだった。 次の里長候補とあってか、武装したエルフたちが数人、彼の背後に従っていた。
「然り! ですが、今は火急のご用件! この里の守護神であられる聖樹が穢されました!」
「――――なに!」と里長も目を見開いた。
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エルフの里。その入り口にある聖樹――――外部からの侵入者を拒絶する意思を表すようにであり、その幹には複雑な紋様が彫り込まれていた。
「その聖樹が穢された」というダレスの言う通り、その紋章が荒く削られている。
(刻まれた紋章――――紋章と魔法には繋がりが深いものだが、これは儀式的、宗教的な意味合いが強くて、魔法的な効果は薄いのか?)
こういう事に関して、本職である魔法使いのユウトの見立てである。
まず、間違いはないだろう。
しかし、魔法的、魔術的な意味がなくとも――――エルフにとっては、重要な意味がある。
それを傷つけた犯人を許さないだろう。
だが、ダレスが声を張り上げた。
「このような仕業、我らが里で行う者はおらず! ならば、疑うべきは1人のみ!」
彼は抜いた剣をユウトに向けていた。
「言葉による真偽は無用! 己が無実を証明したければ、今から俺を立ち会うがいい!」