森の中、常識離れの大樹に囲まれて、太陽の光は閉ざされている。

 暗闇と言うほど暗くはない。 しかし、視界の阻害にはなり得る。

 だが、それを気にする必要はない。 そんな場所では出現する魔物も巨大になるからだ見逃すことはないからだ。

 姿を見せた巨大な昆虫 スカラビースト

 美しい翅と大きな顎を持ち、なにより巨大な(つの)を有している。

 カブトムシが巨大怪物になったような魔物だ。

「――――フン!」と裂帛の気合。

 ユウトは、斬撃のように炎の魔法を放つ。

「炎剣《イグニスグラディウス》」

 炎の軌跡が通り、魔物の体躯に線が走る。

「ぎゃあああああああああああああッ!」と断末魔が轟く。

 遅れて、体が切断された昆虫の巨体が転がり落ちる。 

「昆虫系魔物なのに、珍しい。最後に叫ぶんだな」

 ユウトは関心する。 スカラビーストは初見の魔物だからだ。

 メイヴの故郷であるエルフの里に向かうための遠征。

 遠征には、こういう初めて見る魔物と戦うことがある。

 ――――あると言うか、それが遠征の醍醐味と言える。

 だからだろうか? 少しだけユウトも気が抜けていたのだろう。

「ユウト、気をつけてください。新手の虫が接近してきてます」

 メイヴの助言通りだった。探知魔法を発動するよりも早く、羽根音が聞こえてきた。

「蜂……アサルトホーネットですね。 気をつけてください」

 アサルトホーネット――――その名前の通り、雀蜂(ホーネット)の魔物だ。

 その大きさは人間より少し大きい。 そんなサイズの蜂がいるとしたら、脅威的魔物になる。

 驚異的な機動力。なにより、空中で素早い方向転換で敵対者を翻弄する。

 毒を有した針も巨大であり、刺された人間は――――想像すらしたくない。

 体当たりから毒針のコンビネーション。 さらに爪を振り、隙を見せると噛み付きを繰り返してくる。

 その凶悪性をままにユウトへ襲い掛かる。しかし――――

「体当たり? 毒針? 爪に、噛み付き……悪いけど、それじゃ俺の武装は貫けない」

 ユウトが身に纏うのは重武装の鎧。 アサルトホーネットからの直撃を受けて、動きもしない。

 それでも相手は魔物。人間への闘争心は驚異的であり、攻撃を止めない。

「なら――――『炎壁(イグニスムルス)』」 

 防御魔法。それも炎の壁が出現する。 誘われるように、アサルトホーネットは炎に突っ込んでいった。

 全身に炎におおわれた蜂の魔物は、火の塊に変化して地面に落下した。

 決着――――そう思われたが、メイヴは否定の声を上げた。

「油断しないでください! このアサルトホーネットが厄介とされている理由は――――群れる事です!」
 
「探知魔法に反応した数は――――7匹、いや8匹か」

「私が前に出て蹴散らしてきましょうか?」

「――――いや、大丈夫だ。魔物と戦った比率はメイヴの方が多いだろ? もう少し休んでいてくれ」

「でも……」と彼女は言いかける。 1匹だけなら、初対決のユウトにも倒せる戦闘能力。 しかし、同時に8匹を1人で相手にするとなると――――

「エイム、頼んでもいいか?」と自身の背中に話しかけるユウト。

 さっきまで、確かに何もなかったはずの彼の背中。しかし、今はメイド服の幼女がしゃがみ付いてるのが見える。

「わかりました。こちらで魔法を合わせるので、ご主人さまは好きな魔法を使ってください」

「あぁ」と頷くとユウトは詠唱を始めた。

「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地の落ちろ――――『落雷撃(フルグル トニトゥルス)』」

 地面に刻まれた魔法陣が複数。 それを目標に――――雷撃が叩きつけられ、アサルトホーネットが追撃させていく。

 しかし、2匹――――いや、3匹のみ。 

 半数も減らしていない。 だが、問題はない。なぜなら――――

「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地の落ちろ――――」と先ほどのユウトと同じ詠唱。 それはユウトではなく、彼の背後から――――エイムから聞こえてきた。

落雷撃(フルグル トニトゥルス)

 ユウトとは違い、両手を使い放たれる雷撃魔法――――単純に2倍の雷撃が生存を許されていたはずの蜂たちに直撃していく。

 轟音、そして炸裂。 

 その威力は直撃したアサシンホーネットたちを爆散させていった。

(エイムがいる事で魔法攻撃が3倍になるけど――――俺の攻撃力が3倍じゃなくて、俺の倍の攻撃をエイムが行っている……いや、考えるのは止めとこうか? しかし――――)

「流石に疲れたなぁ」と座り込んだ。

「あの蜂の巣が近くにあるのかなぁ……討伐していく?」

 その提案にメイヴは頷く。

「そうですね。この道は私の里に続く道です。 本来なら冒険者ギルドに依頼する難易度ですが――――私たちエルフは封鎖的ですので」

「よし!」と覚悟を決めて立ち上がろうとするユウトに「待ってください」とメイヴは止めた。

「強い疲労が見えてます。もう少し休んでいきましょう」と彼女は休息の準備を始めた。