二郎系ラーメン……それは山だった。

 野菜の山。 頂上に雪山のように白いニンニクが置かれている。

「ユウト、質問なのですが……私たちも、これを食べよというのですか?」

「ご主人様は、わたしならこのくらい食べれると思っています?」

 2人の視線はジト目。 見ないようにしていたユウトだったが、

「ちなみにうちの店は、残し厳禁だぜ」と店主の言葉で逃げ場はなくなった。

「た、食べれない分は俺が食べるよ」

 ユウトは、諦めれるように言うと気を引きしめた。

(巨大なラーメン……少なくとも2杯分以上か? 今のコンディションでいけるのか?)

 大きく息を吸う。 腹部に空気をため、ゆっくりと吐き出す。

 呼吸法。これを2~3回、繰り返すことで消化器官を刺激。

 強制的に、胃袋に隙間を作っていく。

「よし、これで行ける…はず」と山盛りの野菜に手をつけていく。

 野菜。

 もやしとキャベツの共通点はシャキシャキとした食べ応え。

 茹でて柔らかくなっているにも関わらず、食感は失われていない。

 そして、野菜そのものの甘みを楽しめる。 

 野菜の味付けとして、味付け油(豚の背油らしい)。

 それは、沸点が低く、水に溶けやすい上質なうま味成分だ。

 本来の目標であるスープだけではなく、野菜にも独特の旨味を与えてくれている。

 だが、問題がある。

 食べても、食べても、食べても、食べても、食べても……野菜が終わらない。

 無限のように終わりなき野菜。 底が見えない。

 隣では、メイヴとエイムが、

「すいません! 取り皿ありませんか? あっ! 2つお願いします」

「――――最初から、残す事を前提にして、食べるだけ取り出した。それも、こんな序盤で!?」

 もう、麺と肉を楽しみ始めた2人を横目に、ユウトは野菜に挑み続ける。

 それを見かねたのだろう店主は――――

「野菜ばかりで飽きてきただろうよ? ここらで必殺技を伝授してやる」

「必殺技?」

「おうよ、名前は――――」

「名前は?」

「名前は――――天地返しだ!」

 店主から貰った教え、すぐさま実行に移す。

 ある程度、減らした野菜。下に埋もれる麺と――――

「一気に入れ替える……これが天地返しだ!」

 ようやく、どんぶりの暗い底から、光りを浴びる事が許された麺。 

 その存在感にユウトは思わず、驚愕した。

「麺が太い……なんて言うか、こう……ぶっ太い!」

 ラーメンの麺には種類がある。代表的なのは、太麺と細麺だろう。

 二郎系の麺は太麺だ。 それも極太の麺。

 それらはスープのバランスを配慮して選択される。

 太麺は、その名の通り太くてボリューム感がある。そのために噛み応えやコシがしっかりとしている。

 この食感が、濃厚な豚骨スープとのバランスを取るのに適しているのだ。

 太麺の存在感がスープと調和し、一緒に食べた際に麺とスープがお互いを引き立てあう。

「太麺からはモチモチとした食感。控えめに言って最高だ! なにより、スープと麺の絡みが絶妙……濃厚な豚骨スープ。うまみが口から全身に駆け抜けていくような感覚がする」

 さらに、ユウトは目的としていた物をどんぶりからすくった。

「やっぱり、これ。最初に見た時から気になっていた……肉の塊」

 肉塊……すなわち、チャーシューだ。 しかし、ブロックのように建築物の材料を連想させるような大きさに、ユウトとて躊躇(ちゅうちょ)する。

 だが、その躊躇《ためら》いも一瞬のみ。 輝くような色合いは、まるで挑発をされているような錯覚にすら陥る。

「えぇい、どうにでもなれよ!」と覚悟を決めたユウトは肉塊を口へと
運ぶ。

 ファーストインプレッションは――――

「柔らかい!」

 その見た目から、堅さを意識させられていたが――――結果は真逆。

 それは、むしろ液体のように口内から消えていく。柔らかくて肉の繊維がほぐれ、口の中で溶けていくのだ。

 長時間、煮汁と茹でられ、しっかりと冷温で休まされた肉。

 味を染み込まされたそれは、極上の味と柔らかを有する事になるのだ。

「旨味が爆発する」と彼は目を閉じた。

 その味わいを心ゆくまで味わい尽くすのだ。

 美味しさに満ちた一瞬が彼の中で永遠に続くように感じられた。

 だが、終わらない。

 無限のように積み重ねられた野菜の塔。

 異常なほどに満足感を与えにくるのは、極太の麺と肉塊(チャーシュー)

 それらに合う濃いめのスープ。 そして、食欲を加速させるニンニクの香りが充満している。

「うん、美味い。これなら――――いくらでも食べれそうだ」

 ここからユウトは本気で食する事にしたのだ。

 その胃袋は、まるで無限の大地のように広がりを見せた。食べるたびに生命力が活性化されていく感覚。 

 彼の食事速度が加速していく。

 その食事光景はドラゴンの略奪をイメージさせられる。 

 一瞬で食材を飲み込む。その勢いは、まさにドラゴンの猛撃のように迫るものだった。
   
 その咀嚼音――――咆哮のように荒々しく響き渡っていく。

 周囲にいる者たち――――メイヴも、エイムも、店主ですら、その迫力を感じさせた。