―――翌日―――

「おはようございます、ご主人さま」

「あぁ、ありがとう」とエイムに起こされ、体を起こす。

「さて、そろそろ着替えて、メイヴを迎えに……」

「あぁ、気にしなくていい。すでに待たせて貰っているから」

 部屋の中にメイヴが寛いでいた。

(なんで、当たり前のように部屋の中に入っているんだ?)

「どうかしましたか? 着替えないのですか? だったら、私が着替えのお手伝いをさせて――――」

「――――っ!? いや、いい……と言うか、部屋にお前がいると着替えれないだろ?」

「何を今さら照れているですか? 冒険者同士なのですから、ダンジョンでは着替え程度でたじろがないのでしょ?」

「それはダンジョンの話。 公共の場所――――いや、俺の部屋は公共の場所じゃないが、そういう所でやる事ではないの」

「そう言うものですか? では、仕方がありません」と渋々とメイヴは部屋から出て行った。

「やれやれ……いや、お前も出ていくんだぞ、エイム」

 当たり前のように部屋に残っていたエイム。 彼女は驚いたようで、

「え! 私はご主人さまの世話をしなければならないので――――」

「いや、出ていけ!」

・・・

・・・・・・  

・・・・・・・・・


 部屋を出たあと、ユウトは食堂で野菜料理を食すために、エルフであるメイヴとエイムを連れて歩いていた。

「……(いや、エイムはエルフじゃなくて、エルフの信仰対象が擬人化した姿なのだから……もしかして神さまとかになるのか?)」

 ユウトは一瞬、考えたが……

(それだと、俺は神様をメイドにしていることになるので……考えないことにしよう)
 
 ユウトは考えるのを止めた。 しばらくすると―――
 
「これはこれで、良いものですね!」とメイヴ。
  
「ん?」

 気づけば、3人は横に並んで歩いている。

 どうやら、無意識にエイムが迷子にならないように手を握っていた。

 エイムの手、反対側の手をメイヴは握っている。

 何がメイヴを上機嫌にしているのかわからない、ユウトだったが……

 彼は気づかない。 3人が通った後、すれ違った町民たちは、驚きの声を上げている事を――――

「おい、あれってS級冒険者のメイヴ・ブラックウッドだろ?」

「横はA級のユウトか――――真ん中の子供は、エルフのように見えるが、もしかして……」

「おいおい、スクープじゃないか? 結婚どころか、子供までいるじゃないか!」

 それらの話は、エルフの長耳には届いているらしい。

 ニマニマと不思議な笑みを浮かべていた。

 そんなこともありながら、3人は目的地――――冒険者ギルド前の食堂に到着した。

「よう、来たか」と店主が出迎えてきた。その店主が不思議そうな顔を見せた。

「ほう……今回の料理にエルフを連れてきたのか? なかなかのチャレンジャーじゃないか」

「チャレンジャー? 今回はエルフ向けの料理だったはずでは?」

 店主の言葉。ユウトは嫌な予感がした。

「まぁいい、椅子に座って待ってな。すぐに料理を持ってくるからな」

 促されたまま、椅子に座るユウトたち。 その時、初めて気がついたのは店内に漂う香り。

 強い香りだ。 食欲を刺激する香りではあるが……

「少し匂いが強過ぎじゃないのか?」と不安が増す。

 その強烈な匂いは店内の支配していた。 芳醇と言える独特さ。

 それが鼻腔を直撃する。その芳醇さ……それは、まるで秘密のスパイスのようであり、味覚よりも先に嗅覚で満たされていく。

(あぁ直撃しているのは鼻腔だけではすまない。腹部への刺激は強く激しい。どこまでも空腹を加速させていく。だが、それは不安要素……)

 ユウトは隣の2人を見る。 その表情は――――

 おい、本当に野菜料理なんだろうな? 本当にエルフ向け料理なんだろうな?

 メイヴも、エイムも、そんな話し方ではない。 しかし、その物言わない表情からは意思が伝達されていくのだ。

 そして、その料理はやってきた。

「お待ちどうさま 野菜ニンニクマシマシアブラカラメだ」

「……はぁ? 今なんて言った? 確か、野菜ニンニクマシマシアブラカラメ?」 
 
「おう、野菜ニンニクマシマシアブラカラメだ」 

「え? 野菜ニンニクマシマシアブラカラメ?」

「ユウト、お前それ言いたいだけだろ? 言葉のフレーズが気にいっただけだろ?」

「ちぇ、バレたか」と苦笑しながら、目を逸らしていた料理を改めて見た。

 どんぶりに(タワー)が立っている。 何を言っているのかわからないのかもしれない……

 どんぶりに野菜が塔のように積み重ねられていた。

 茹でられている野菜は、もやしが中心となり、キャベツが斜面を滑るように置かれている。

 一番上、頂上には白い物体が鎮座。 これが強烈な匂いの秘密――――ニンニクだ。

 いや、頂上に目を取られていた。本当に注目すべきはどんぶりの下部。

 半分、野菜に埋もれながらも塔の土台になっているのは肉だ。 肉――――もはや、肉塊と言っても良い。 建造物で使われるブロックを連想するような肉の塊。

 それは、もはや暴力的と言えた。 料理でありながら、味だけではなく見た目で殴りかかられるような暴力性。 

 さらに肉の下。 これはスープだろうか? 液体が浸されている。

 そこでユウトは初めて、この料理の正体に気づいた。

「これは! 何重にも積み重ねられた食材の下! これはまさか――――店主、これの正体は麺料理なのか!」

 店主は、どこか誇らしく正解を告げた。

「あぁ、コイツの正体は麺料理――――名前はラーメンだ。それもただのラーメンじゃない。 二郎系……コイツの名前は二郎系ラーメンだ!」