「終わりましたよ、有資格者さん」

 彼女、マリーナのいう通りにユウトが持つ魔導書は光り、新たなページが増えた。

 それを不思議そうに眺めるユウトに気づいたのだろう。

「どうかしました? 有資格者さま?」

「いや、なんとなく……今回はあっさりとしてるなぁ……なんて思って」

 他の2人、ニクシアやシルキアとの戦い。

 ひりつくような死闘感はなかった。それが感じる必要のない不安の正体。

「あっさり勝ったなんて言うと、君に失礼なんだろう。けど、勝敗を分けたのは偶然の一撃。それに人魚である君に、水中戦を封じる戦い方を押し付けたみたいで……」

 しかし、マリーナはため息とつきながら、

「有資格者さまは、戦いに真面目ですね」

「真面目?」

「私たちと貴方の戦いにルールなんてないのですよ。言ってしまえば、私たちが負けたなぁ、勝てないなぁって感じたら貴方の勝ち。それを決めるのは私なのですから」

「そ、そういうものなのか?」

「そう言うものですよ。それとも――――」

「?」

「有資格者さまは私たちと本気で殺し合いをしたいと思っているのです?」

 マリーナは、殺気や敵意と言った感情はない。

(しかし、単純な圧力――――ここで頷いてしまうと、殺し合いが始まってしまいそうな……)

「冗談ですよ、冗談」と彼女は悪戯がバレた子供のように舌を出した。

 それから、

「私は嬉しいのです」

「嬉しい?」

「はい、ニクシアの時も、シルキアの時も、彼女たちと殺し合いをしないでいてくれて私は嬉しい。ほら、私たちは魔物であり、怪物……人間ではないのですから」

「――――」とユウトは何も言えなくなった。

 魔物や怪物……つまり、人類の敵。殺し、滅ぼさなければならない相手。

 しかし、ユウトは、彼女たちにそういう感情が持てなかった。

 彼女たちと人間――――一体、何が違うというのだろうか?

 だから、今までの戦い。ユウトは真剣な殺し合いをせずに、明確な勝敗を刻みつけることで終わらせてきた。

(でも――――このまま、これを続けていくなら起きるのかもしれない。純度の高い殺し合いが……)

 その感情を彼女は――――マリーナは読み取ったのだろうか?

「貴方の道は困難が続くでしょう。でも、どうか……私たちを殺さないでください」

・・・

・・・・・・ 

・・・・・・・・・

 ダンジョン攻略を終え、町に戻ったユウト。

 手に入れた素材。それに回復薬などの残量を確認する。

「全く、回復薬(ポーション)が減ってない。ダンジョンに潜ってここまで使わなかったことはなかった」

(もしかして――――俺、強くなっているのか?)

 実感を得る。 

 隠しダンジョンの魔物――――使徒を倒して、魔導書を更新させる。

 更新させた魔導書には、新たな隠しダンジョンの場所。それと料理の調理方法が書かれている。

 その料理を食べると、身体能力や魔力が強化されている。

(いや、精密に調べると他にも変化が起きているかもしれない。調べる方法……なにか考えないといけないかもしれない)

 そんな事を考えながら、ユウトが目指す所は、冒険者ギルド――――ではなく、その目前にある食堂。

 いつものように魔導書を翻訳。料理の調理法を店主に伝えると――――

「明日、今日と同じ時間帯に来てくれ」と毎度のセリフを残して、店主は厨房に入って行った。

 1人残された彼は、店を出る。

「さて……今日こそ、手に入れた武器の鑑定を――――」

 そこで気づいた。

 苦労して倒した武装トロール。そうして手に入れた魔法付加が可能な金属の塊――――

「持ち歩けないからって、ダンジョンに忘れてきた。取りに戻って……いや、無理か?」

 ダンジョン攻略を終えたばかりの体で、再びダンジョンへ潜る。

 それは自殺行為だと判断して諦めた。

「あっ、ユウトではないですか。どうかされましたか? そんなに肩を落として」

 その声の主は――――

「あぁ、メイヴか。実はダンジョンで手に入れた希少な素材を紛失した事に、今になって気づいて……」

「それは、災難ですね」とメイヴ。

「私にできる事があれば、なんでも……」 

 そう言われてユウトは気づいた。 今日、更新された魔導書のページ。そこに書かれていた料理は、なんと1品のみ。それも野菜を中心とした料理……だった気がした。

 野菜中心の料理……だったらとユウトは提案する。

「明日、ここの店主が野菜中心の料理を食べさせてくる。 エイムも誘って一緒にどうだ?」