人魚のマリーナは筋力が低い。 低いとは言え、それはシルキアやニクシアと比べての話だ。
馬乗り状態で攻めて来るマリーナを容易には返せない。
そもそも、馬乗り状態からの脱出は非常に困難だ。
ただ、上に乗って体重で相手を押さえつける――――だけではない。
そこには明確な戦闘技術が存在している。
加えて、マリーナの武器である三又槍。これはユウトの防具であるチェインメイルとは非常に相性が悪い。
三又槍はその名の通り、先端が3つに別れた鋭い槍。
一方のチェインメイルも名前の通り、鎖を編んで作った鎧。
鋭い槍の連撃は、鎖の僅かな隙間に攻撃を与え、破損箇所を広げていく。
(まずい! このまま、鎧が破壊されたら!)
マリーナの猛撃を盾で防ぎ続けるユウトであったが、徐々に焦りが生まれていく。
さらに、
號――――と異音が近づいてきた。
「何の音だ!」と一瞬の隙をついて、音の正体を直視すると、
「あの石! 俺を転倒させた石とは別の石が跳弾して、今頃!」
戦いの始まり、マリーナが叩いた2つの石。 その1つが闘技場内で跳弾を繰り返し、ユウトの頭頂部を狙うように迫ってきた。
「これも、最初から計算して――――そんな馬鹿な!」
動揺するユウトに対してマリーナは、「いえいえ」と笑って見せた。
「ずっと暇な時間は、氷と石で遊んでいたので――――数千年もやれば貴方も簡単に計算できるようになりますよ」
その言葉にユウトは寒気を覚えた。
氷上で石を叩いて攻撃してくる。まるで童の遊びのような印象を抱いていたが――――
(それが数千年…… 練習して対人戦闘にも生かす事ができるなら、それは――――もはや武道だ)
未知の武道。その技に晒された恐怖感――――そして、現実に頭部を狙って迫り来る石。
「くっ! けど、直撃だけは喰らってやるものか!」
ユウトはブリッチ、バランスを整えるためマリーナの攻撃が止まる。
それで馬乗り状態から脱出できるはずもないが……
僅かでも体をずらし、首を傾けて、頭部に直撃を躱す。
しかし――――
「ぐっあっ!」と思わず、ユウトの口から苦悶の声が漏れた。
実質、体を押さえつけられた状態。 完全に躱す事はできない。
頭部への直撃は避けれても肩口に衝撃を受けた。
(――――肩の痛みから、鎖骨は無事。脱臼もないが……暫くは使えないか)
肩に受けたダメージを冷静に分析。 あるのは痛みと痺れだけ……しかし、攻撃を受け続けている状態では、そのダメージは大きい。
今も、マリーナは三又槍を――――それに合わせて、ユウトは盾を投げ捨てた。
怯む彼女。
その隙に再びブリッチをするユウト。
それだけでは終わらない。体に捻りを加えながら、動く腕でマリーナの肉体に振り払うように力を加えた。
2人の体勢が、完全に横に向く。
馬乗り状態は崩れた。 崩れた事で、生まれたスペース。
そこに向かってユウトは体を動かした。
立ち上がり、対峙する両者。 だが――――
(まずいなぁ)
ユウトは自分の状態を再確認。 石の直撃を受けた右肩は、まだ動かない。
盾を失った左手に杖を持ち替える。
(氷上という環境利用の闘法に翻弄されている。なんとか突破口を――――)
だが、思考の余裕を許すマリーナではなかった。
石を叩く。 それと同時にユウトに向かって、三又槍での突きを狙い接近してきた。
石の方向はユウトに向かってではない。 しかし、すぐにユウトは気づいた。
(あの方向……俺の肩を痛めた石がある場所。石と石をぶつけて、俺の死角から攻撃を狙うつもりか! だったら――――)
「だったら、根本から覆させてもらうぜ!」
ユウトは魔法を唱える。 選択した魔法は――――
『大地の震え』
地形を強制的に変更させる魔法。それは氷に覆われた舞台でも有効だった。
死角からユウトを狙っていた石は、軌道を大きく変えられ観客席まで飛んで行った。
残りは接近してくるマリーナの刺突のみ。 だが、油断してはならない。
自身の負傷箇所。できるのは―――― 利き腕ではない左で杖を振るうのみ。
(魔法の連射は……間に合わない。だったら、回避だ)
直前の回避運動。
だが、マリーナは、それすらも計算していたのか? 槍の刺突は、軌道を変えてユウトを狙い続けている。
(――――くっ! 杖で刺突を弾いて防御を!)
ブーンと野太い音を立て、振ったユウトの杖。 しかし、利き腕ではなかったためか、弾くべきマリーナの槍から外れる。
三又槍の直撃。 分厚い緩衝材を貫き、その下にあるチェインメイルを破壊して――――
しかし、それは途中で止まった。
空ぶったユウトの杖が――――マリーナの顔面に直撃したからだ。
動きを止めた彼女は――――
「む……」
「む?」
「むきゅ~う」と倒れ込んで失神した。
おそらく、偶然のために意識すらできなかった一撃。 不意打ちに等しい一撃は、衝撃に耐えるため体の膠着すら起きない。
そのため、想定外のダメージとなり、彼女の意識を刈取ったのだ。
馬乗り状態で攻めて来るマリーナを容易には返せない。
そもそも、馬乗り状態からの脱出は非常に困難だ。
ただ、上に乗って体重で相手を押さえつける――――だけではない。
そこには明確な戦闘技術が存在している。
加えて、マリーナの武器である三又槍。これはユウトの防具であるチェインメイルとは非常に相性が悪い。
三又槍はその名の通り、先端が3つに別れた鋭い槍。
一方のチェインメイルも名前の通り、鎖を編んで作った鎧。
鋭い槍の連撃は、鎖の僅かな隙間に攻撃を与え、破損箇所を広げていく。
(まずい! このまま、鎧が破壊されたら!)
マリーナの猛撃を盾で防ぎ続けるユウトであったが、徐々に焦りが生まれていく。
さらに、
號――――と異音が近づいてきた。
「何の音だ!」と一瞬の隙をついて、音の正体を直視すると、
「あの石! 俺を転倒させた石とは別の石が跳弾して、今頃!」
戦いの始まり、マリーナが叩いた2つの石。 その1つが闘技場内で跳弾を繰り返し、ユウトの頭頂部を狙うように迫ってきた。
「これも、最初から計算して――――そんな馬鹿な!」
動揺するユウトに対してマリーナは、「いえいえ」と笑って見せた。
「ずっと暇な時間は、氷と石で遊んでいたので――――数千年もやれば貴方も簡単に計算できるようになりますよ」
その言葉にユウトは寒気を覚えた。
氷上で石を叩いて攻撃してくる。まるで童の遊びのような印象を抱いていたが――――
(それが数千年…… 練習して対人戦闘にも生かす事ができるなら、それは――――もはや武道だ)
未知の武道。その技に晒された恐怖感――――そして、現実に頭部を狙って迫り来る石。
「くっ! けど、直撃だけは喰らってやるものか!」
ユウトはブリッチ、バランスを整えるためマリーナの攻撃が止まる。
それで馬乗り状態から脱出できるはずもないが……
僅かでも体をずらし、首を傾けて、頭部に直撃を躱す。
しかし――――
「ぐっあっ!」と思わず、ユウトの口から苦悶の声が漏れた。
実質、体を押さえつけられた状態。 完全に躱す事はできない。
頭部への直撃は避けれても肩口に衝撃を受けた。
(――――肩の痛みから、鎖骨は無事。脱臼もないが……暫くは使えないか)
肩に受けたダメージを冷静に分析。 あるのは痛みと痺れだけ……しかし、攻撃を受け続けている状態では、そのダメージは大きい。
今も、マリーナは三又槍を――――それに合わせて、ユウトは盾を投げ捨てた。
怯む彼女。
その隙に再びブリッチをするユウト。
それだけでは終わらない。体に捻りを加えながら、動く腕でマリーナの肉体に振り払うように力を加えた。
2人の体勢が、完全に横に向く。
馬乗り状態は崩れた。 崩れた事で、生まれたスペース。
そこに向かってユウトは体を動かした。
立ち上がり、対峙する両者。 だが――――
(まずいなぁ)
ユウトは自分の状態を再確認。 石の直撃を受けた右肩は、まだ動かない。
盾を失った左手に杖を持ち替える。
(氷上という環境利用の闘法に翻弄されている。なんとか突破口を――――)
だが、思考の余裕を許すマリーナではなかった。
石を叩く。 それと同時にユウトに向かって、三又槍での突きを狙い接近してきた。
石の方向はユウトに向かってではない。 しかし、すぐにユウトは気づいた。
(あの方向……俺の肩を痛めた石がある場所。石と石をぶつけて、俺の死角から攻撃を狙うつもりか! だったら――――)
「だったら、根本から覆させてもらうぜ!」
ユウトは魔法を唱える。 選択した魔法は――――
『大地の震え』
地形を強制的に変更させる魔法。それは氷に覆われた舞台でも有効だった。
死角からユウトを狙っていた石は、軌道を大きく変えられ観客席まで飛んで行った。
残りは接近してくるマリーナの刺突のみ。 だが、油断してはならない。
自身の負傷箇所。できるのは―――― 利き腕ではない左で杖を振るうのみ。
(魔法の連射は……間に合わない。だったら、回避だ)
直前の回避運動。
だが、マリーナは、それすらも計算していたのか? 槍の刺突は、軌道を変えてユウトを狙い続けている。
(――――くっ! 杖で刺突を弾いて防御を!)
ブーンと野太い音を立て、振ったユウトの杖。 しかし、利き腕ではなかったためか、弾くべきマリーナの槍から外れる。
三又槍の直撃。 分厚い緩衝材を貫き、その下にあるチェインメイルを破壊して――――
しかし、それは途中で止まった。
空ぶったユウトの杖が――――マリーナの顔面に直撃したからだ。
動きを止めた彼女は――――
「む……」
「む?」
「むきゅ~う」と倒れ込んで失神した。
おそらく、偶然のために意識すらできなかった一撃。 不意打ちに等しい一撃は、衝撃に耐えるため体の膠着すら起きない。
そのため、想定外のダメージとなり、彼女の意識を刈取ったのだ。