追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 武装トロールの一撃。 鈍器をギリギリで躱す。

 背中に破壊の衝撃を受けながら前に飛び込み――――

炎剣(イグニスグラディウス)』 

 魔法を放つ。

 直撃した武装トロールは大きく仰け反る。

「よし! もう一度!」と2度、3度と至近距離での火炎魔法の連続打ち。

 明らかな手ごたえ。大きくダメージを与えているのがわかる。

 しかし、ユウトの足元に影が差す。 武装トロールの武器に意識をしていたばかりに予想外の攻撃に反応が遅れる。

 その攻撃とは――――頭突き。

 頑丈な防具である兜を武器に、地面を砕くような頭突きをユウトに叩き込んだ。

 防御。

 逃げ場もなく、盾を構えて受けたユウトだったが、全身に衝撃。

(――――ツ! 一撃で幾つかの関節を痛めつけられたか。痛みは動けないほどではないが……)

 明らかにユウトの動きが鈍る。 武装トロールは、その隙に――――

「なっ! 魔力を使用!? トロールが!」

 ユウトは驚きの声を上げた。 武装トロールは魔力を使い、武器を強化した。

 より速く振えるように軽く―――― それでいて、より強い一撃を放てるように重く――――

 その矛盾を解決するように武器への魔法強化。 加えて――――

付加魔法(エンチャント)! それも炎を纏わせるって……俺の炎剣を真似したのか? それとも元々使えたのか?」

 炎。

 それは原始的な恐怖を呼び起こす。 鈍器に炎を身に纏わせて、ユウトに向けて強打を放つ。

「――――っ!? 熱い! アッツ!」と転がりながら、物理的衝撃と熱の苦しみから逃れるユウト。

 それだけではない。 一瞬の攻防で、溢れ落ちたのは大量の汗。

 猛熱によって体力が削られた実感を受ける。

(長期戦はまずい。ここからは短期決戦――――威力を重視した魔力を叩き込む!)

 そう決めてからのユウトは早かった。 距離を取るために後ろに下がる。

 それを追うように前に走り出す武装トロール。

 だが、ユウトが欲しかったのは詠唱の時間。  

大地の震え(テラトレメンス)

 強制的に地形を変える魔法を使用。 バランスを大きく崩した武装トロールは転倒。

 立ち上がろうとするトロールの目前、掌を構えたユウトが待ち構えている。

「これは、俺の経験則なんだが……その人間離れした巨体。立ち上がるには時間が必要だろう?」
 
 反射的に立ち上がる事よりも攻撃を優先したのだろう。力のまま、武装トロールは手を振り回す。

 しかし、ユウトの攻撃の方が――――いや、詠唱を終える方が速かった。

「詠唱 凍てつく極寒の風よ 静かに我の敵を閉ざせ――――冬嵐(ヒエムステンペスタス)

 炎に対して、氷の魔法。 敵の動きを封じ込める氷結の魔法を叩き込んだ。

 武装トロールの手に持つ炎の鈍器。 轟々と威圧をするように音を立てていた武器ですら、炎を消し去り氷漬けにしていく。

 炎の武器ですら、それなのだ。

 本体である武装トロールはどうなったのか? 語る必要があるだろうか?

「やれやれ、何とか勝てたが……主の前に苦戦しすぎたかな?」

 倒した武装トロールは、今までの通り霧散して消えていく。

(今まで通り……それなら、奇妙な武器をドロップしてくれるはずだけどな)

 主の前に出現する『門番』とも言える強敵。 ユウトの言う通り、倒せば武器がその場に残った。

 最初の幽霊騎士なら、透明な弓

 2回目の蛇女(ラミア)なら、猛毒のナイフ

(そう言えば、まだ自分で試した事もなければ、鑑定に出してもないな……)

 帰宅後にドワーフ少女が看板娘として働いている店で鑑定を頼もう。そんな事を考えていると――――

「あった。でも……これか」と落胆したユウトの声。

 武装トロールが消滅した後に残った武器は、彼が振り回してた炎の鈍器だ。

 それはユウトの体よりも大きく。とても1人ではもって動きないように思えた。

 しかし――――

「いや、見た目よりも軽いのか? 異常に振り回す速度が速すぎるとは思っていたけど……」

 何とか持ち上がる重さ。 もって帰れそうではある。

「う~ん……この武器を素材として作り直せば、炎が付加(エンチャント)できる魔法の武器が何個か作れそうだな」

 そう言って、ダンジョンの壁に立てかけた。

 この先、通路の奥に光が漏れている。 あそこには、ダンジョンの主――――蜘蛛女(アラクネ)のシルキアや人馬(ケンタウロス)のニクシア。

 彼女たちと同等の存在が待ち受けているのだ。

 まさか、この巨大武器を担いだまま行って、奇襲攻撃を受けるわけにはいかない。

 ユウトは警戒心を強め、光りの先に向けて歩みを進めた。