―――数日後―――

 偶然、ユウトはオリビアと会った。

「それで、結局どうなったのですか?」

「ん? ケイデンの話か……あの敗戦から、一から鍛え直して再戦をするつもりらしい」

「勝って結婚を申し込む。そう考えるとロマンチックですね」

「あぁ、もう何日も1人でダンジョンに籠って生活しているらしい」

「ダンジョンで生活って……もうそれは冒険者として強くなると言うより、自身を強靭な生物に作り替えるというか……」

「それだけ、ケイデンも本気ってことなんだろうな」

「……ところで」とオリビアは、探りを入れるように話を変えてきた。

「ん? なんだ?」 

「あの2人、ニクシアさんも、シルキアさんも……一体、何者なのですか?」

「何者って――――」

「あのニクシアさんは斧槍の技で戦っていましたが、体の内にある魔力は、普通の人間とは思えませんでした」

 オリビアは《大魔導士》である。 ユウトとは比べものにならない知識量を持っているのはわかっていた事だ。

 質問責めされるユウトは――――

(さて、どうやって誤魔化そうか)

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 ダンジョン『炎氷の地下牢』の隠し通路。

 闘技場に隣接されている彼女の部屋には、今日も武器を作っている鉄槌の音が響いていた。

「む! もう素材が無くなったのか。調達したばかりだと思っていたが……仕方があるまい」

 ふらりとケンタウロスの彼女は、ダンジョンの最奥に向かう。

「おっ! いた。尻尾は……よし、再生してるな!」

 愛用の斧槍と鎧は、黄金に輝いている。 手慣れたようにダンジョン最奥に住まうボスの尻尾を斬ると、特殊素材を持って帰る。

「さて、これで……」

「やっほ、ニクシア! また趣味の武器作り?」

 突然の来客に「シルキア!」と彼女は驚く。その姿に今度は来客者――――シルキアもまた驚いた。

「な、なんです? その反応は……私が訪ねてくるのに、そんな驚くことでは……」
 
「おや?」と言葉の途中で気がついた。

「今、作っているのはいつもの斧槍とは違う形状ですね。これは――――剣?」

「べ、別に良いだろ。我だって剣を作りたくなる日もある」

「それは、別に構いませんが……もしかして、ケイデンさんへのプレゼントですか?」

「――――っ!?!?」とニクシアは誤魔化しきれないほどの動揺を見せ、顔を赤く染めた。

 それから――――

「か、勘違いしないでくれ、あの男が我に勝った時に褒美としてくれてやろうと思っただけだ!」

「勘違いも何も……そのままじゃありませんか?」

「だから、シルキア――――」

「いや、私は嬉しいのですよ」

「?」

「毎日、無限に等しい時間をダンジョンの中で過ごす貴方が、他のものに興味を向けたことが……」

「シルキア、お前……我の事、そんな風に思っていたのか?」

「ただまぁ、その武器を手渡す事になるのは何年後か私も予想ができませんがね」 

 彼女はニクシアに笑ってそう言った。