「や、やはり露出の多い衣服ではなかったか! シルキア!」

 それを指摘した瞬間、ニクシアの顔色は凄まじい速度で赤に染まった。

 鍛えられた太ももを投げだしたかのように短いスカート。

 腹部は、わざわざ切り取ったように割れた腹筋が見えるようになっている。

「妙だと思ったのだ。近代でも、このような服装……」

「そのような事を言ってる場合じゃないですよ! ラブロマンスですよ!」

 シルキアは自分のことのように、顔を押さえて左右に激しく振り始めた。

「いいですか、ニクシア! 町で困っている婦人の手助けをした時、同じタイミングで出会った2人。しかし、2人は立場が違います……さて!」

「さて……じゃない! 早く、別の着替えを用意しろ!」

 そんなやり取りを見ているのは、ユウトとオリビアだった。

「えっと……ユウトさん、この2人がケイデンが探していた人ですよね? 特徴も一致していますが……知り合いだったのですね」

「知り合いだったな。俺も想定外の人物だったが……」

「それで?」とユウトは、ニクシアに呼びかけた。

「どうする? ケイデンは会いたがっているが?」

「会うはずがなかろう。冒険者などに求婚されても叶えられるはずもない」

「ニクシアは使命を難しく考えすぎです。かの神々だって人間とのラブロマンスは……きゃっ!」

「きゃっ! ではないシルキア! お前は、早く服を用意するのだ」

 2人のやり取りを見たオリビアは、不思議そうな顔をして訪ねて来る。

「この人たちは、何者なのですか? 普通の人ではなさそうですが?」

「ん?」とユウトは迷った。 

(どこまで話しても許されるかな? 2人は人間ではない。認めた人間に王の如く、権力を与える神々の使者……言えるはずもないか)

「この2人は、お忍びで町に来ている立場ある人たちだ」

「へぇ! そうなのですか!」とオリビアはすぐに信じた。

(けど、早く話を終わらせないと……ボロが出そうだ)

「よし、それじゃ……こうしよう」とユウトは、とある提案を出した。

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・・・・・・

・・・・・・・・・・

「……」とケイデンは歩いている。 

 その表情、横のいるユウトに対して、「本当にやるのか?」と確認してくる。

「あぁ、彼女は結婚相手に自分より強い戦士を求めている。とある国の立場ある女性だから、強さで周囲を認める必要がある……らしい」

 もちろん、嘘である。

 ユウトは考えた。ケイデンがニクシアに認められるのは、茨の道。 困難が待ち受けている。

(だったら、逆転の発想だ! ケイデンを俺と同じ立場――――有資格者にしてしまえばいい!)   

 ここは冒険者が訓練や連携練習などで借りる場所。早朝、誰もいない時間帯を見計らって2人を戦わせることにした。

 その奥――――すでにニクシアは待ち受けていた。 横にはシルキアもいる。

 その手には、練習用の武器――――愛用武器の斧槍に似せて、簡単に作ったもののようだ。

 木製の武器。 

 素材は特殊な植物。 本気で叩き込まれても大怪我をすることはない……と断言する事はできないが、安全性の高い訓練用の武器だ。

 彼女は人間の姿のままだ。 何も知らないケイデンの前でケンタウロスの姿を晒すわけにはいかない。

「それで本気を出せるのか?」と訊ねたが、彼女の返答は「問題ない」と返ってきた。

 ケイデンも近場に転がっている木製の武器を手に取った。

 素振りをして気に入ったのだろう。それを構えた。

 それを反対側から眺めていたニクシアは声を張り上げた。

 しかし、その相手はケイデンではなく、ユウトに対してだった。

「ユウト……この者が我に勝てば、新たな有資格者……つまり、お前のライバルになる。そのためだけに本当に良いのか?」

「あぁ、構わないさ。それが今回の依頼内容だから……それで解決するなら、楽なものさ」

「其方は有資格者を、王権者を、軽く見ている。まぁ良いだろう――――この姿であるが、本気でいかせてもらう!」

 その言葉と同時に空気がヒリつき始めた。 殺意? 闘気? とにかく、そう言う感情がユウト――――ではなく隣のケイデンに叩きつけられた。

(なんて圧力だ。まともに受けているケイデンは、どう思っている?)

 ユウトは隣を見た。しかし、ケイデンは涼しい顔。 

 ニクシアから放たれる圧力を受け流していた。

「ほう……強者であったか。 なら――――参る!」

「……」とケイデンは相変わらず無言で答えた。