「ちょっと聞きたい事がある」とユウトは店主を呼び止めた。

「なんだ。今は忙しい時間帯だぞ」

「そう言うなよ」とユウトは店主に、紙幣を握らせた。

「……何が知りたい?」

 店主は情報屋の副業をしていた。

 元冒険者である店主の元には、町の情報が自然と集まっている……らしい。

「昨日、今日で町であったスリ行為。犯人を捕まえた女性の情報を知りたい」

「……町の北側。その女性が宿を取っている」

「ありがとう。やっぱり困った時には店主だな」

「おだてても、何も出さねぇぞ」と店主は仕事に戻って行った。

「さて、居場所はわかった。ケイデンも一緒に行くか?」

 しかし、彼は「……」と首を横に振った。

「……まだ、心の準備ができてないってことか?」

 ケイデンは勢いよく頷いた。

「それじゃ2人で行くか?」

「あっ、はい」とオリビアはユウトの後ろをついて歩き始めた。

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「私たち、魔法使いであることを見込まれて、ケイデンさんは依頼を出したのに何だか複雑ですね」

「そうか? ケイデンにしてみたら、恋をした女性が見つかれば良いのあって、手段は気にしないと思うぞ」

「それは、そうですが……」とオリビアは、自身の言葉通り、複雑そうな表情だった。

「これは、冒険者としてのアドバイスだが、魔法使いは全てを魔法で解決しようとしたがる。でも、それに囚われちゃいけない」

「魔法に囚われていけない……」

「まぁ、ただの魔法使いである俺が《大魔導士》である君にアドバイスを送れる立場じゃないけどな」とユウトは自虐的に笑った。

「いえ、そんな事はありません! でも、どうしてですか?」

「ん?」

「ユウトさんなら、《魔法使い》から別の上位職業に移る事もできたのではないでしょうか?」

「ん~ どうだろうね」と彼は考えた。

 上位職になるためには、その職業の者に弟子入りをする。

 その実力を師に認められて、秘伝や奥義と言われる技術を学ぶ。

 技術の伝授が終われば、冒険者ギルドによる正式な査定。

 そうやって、上位職業として認められるのだが……

「結局、時間と金がなかったからなぁ……」とユウトは呟いた。

 後衛職は危険が少ないからと言って、報酬の分け前を減らされた事があった。

 その分、休まずダンジョン探索へ。 ミカエルたちが休日でも、ユウトだけは助っ人として、別パーティでダンジョンに向かう事も多かった。

「でも、今から大学《アカデミー》に入って《大魔導士》を目指してはいかがです?」

「今は金と時間ができたのは確かだが、今から大学か……」

 ユウトは迷った。 長い時間、ダンジョンに挑んだ彼の戦い方は、本来の魔法使いの戦い方ではない。

 さらに、魔法を使った接近戦の研究を独自で始めている。

 彼が自称したがる《孤高特化型魔法使い》は上位職業の人々から見れば邪道の闘法になる。

「戦い方を矯正されるのは、ちょっとなぁ」とユウト。 

 それを理由に上位職業を断った。

「そうですか。残念ですね……《大魔導士》なら私でも推薦することができたのですけど」

「ん? 推薦って?」

「はい! 私は、冒険者として実地訓練を2年修めれば、大学《アカデミー》で教鞭を振るう事が決まっているので」

「そ、その歳で上位職業の指導側だったのか!」

 ユウトは驚いた。 オリビアの年頃を考えれば、すぐに大学の長まで出世していくだろう。

 ミカエルも、そんな子のスカウトに成功した時は、さぞ喜んだ事だろう。

(まぁ……そりゃ、大学の大幹部候補が来るなら、俺を追放するわな)

 自虐的な苦笑をしながら、ユウトは目的に――――

「むっ! 其方(ソナタ)は有資格者ではないか! 奇遇ではないか!」

「奇遇って、ニクシア……私たちが有資格者の様子を見に来たの忘れたのですか?」

「――――それは本人を前に言う事ではないだろ!」

 現れたのは、ニクシアとシルキアの2人組だ。

 それも――――

「流れるように美しい金髪と美貌……露出の多い服」とニクシアの特徴を口にするユウト。

 それはケイデンが探している女性と一致する特徴であった。