追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 ミカエルは荷物をまとめて背負った。その姿に――――

「そんなに急ぐ必要があるのか? 救助されて1日くらいしか経過していないだろ?」

 思わず引き留めてしまった自分にユウトは驚いた。

「この町には良い思い出が多すぎるからな」とミカエルは、最後に町を見渡した。

「もう来ることもないだろうな」

「寂しい事を言うなよ。毎月とは言わないが半年に1度くらいは来い」

「気が向いたらな。 あと、地元の大食い大会……時期が来たら招待させてもらうぜ?」

「あぁ、そこで決着をつけよう。たのしみだ」

「そうだな……」

「……」と2人は無言になった。それから、どちらともなく……

 背中を見せた。

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ミカエルは冒険者だ。 数時間、歩き続けることにも慣れている。

 しかし、彼は足を止めた。

 疲労から――――ではない。

「何者か? 町からついて来ているのはわかっている」

 気がついていた追跡者の存在。

「気配を気取らせないようにしていたのだろうが……そこだ!」

 いつの間にか、彼の手には小石が握り込まれていた。

 それを気配の主に向かって投げる。

 防御するか? 回避するか? 

 まさか、これから戦闘になる可能性が高いの、あえて受ける真似はしないだろう。  

 事実、追跡者は投石を防御した。

「……お前か、レイン。なぜ、俺を追ってきた?」

 草陰に隠れていたのは、ミカエルの仲間――――元仲間と言うべきか?

 レイン・アーチャー

 彼女だった。

「困るのよね……1人で遠くに行かれると」

「お前たちにはすまないと思っている。しかし、これ以上は冒険者として続けていく気力はなくなった」

 しかし、彼女は――――

「え? なんのこと?」とキョトンとした表情。

「俺を連れ戻しに来たのではないのか?」

「あぁ、そう言う事ね。そうよ、連れ戻しに来たの……私の傀儡としてね」

 その瞬間、レインはミカエルに対して感情をぶつけてきた。それは、明確に敵意だった。

「……何の真似だ、レイン? 今、ここで戦うつもりか? なんのために?」

「戦う? そんなつもりはないわ。だって、戦わなくても――――すでに私は勝っているのですもの」

「ぐっ!」とミカエルは、視界がぼやけていく。呼吸も激しく乱れ、体を支えるバランスも乱れていく。

「レイン、お前……俺に何をした?」

「何をした? 忘れたの? 貴方、私が作った薬を飲んだでしょ?」

「……馬鹿な。そんなものが俺に効くとでも?」

「? 現に効いてるじゃない?」

「そんな薬が存在するはずが……」

 最後まで言えず、ミカエルはその場で倒れた。

「あぁ、なるほどね。聖戦士の耐毒とか、回復薬《ポーション》の超回復能力で、私の薬を無効化できたって勘違いしてたのね」

 そういう彼女の手。いつの間にか本が握られていた。

「私の魔導書(グリモア)はそう言う次元じゃないのよね。残念だけど……」

 それはユウトが手に入れた魔導書を同じ外見をしていた。違うのは、その能力だ。

「私の魔導書(グリモア)は『怠惰』よ。魔導書に書かれた薬草を作り、人を操る能力が得られたの」

 彼女の魔導書が不気味に光る。 それに合わせて意識がないはずのミカエルが立ち上がった。

「教えてちょうだい、ミカエル。私のカンなら、ユウトも魔導書を手に入れたはず……知ってることがあったら、なんでも話して頂戴」

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「食事をした……? 2人で?」とレインは困惑した。

 ユウトが見せた追放後の活躍。 そこに自分と同じ魔導書を手に入れた可能性を考えた彼女。

 ミカエルなら、ユウトの変化を見抜いた……そう考えたのだが、成果と言えるものはなかった。

「――――いや、私とは違うタイプ。 全ての魔導書が傀儡を作る操作系の力とは限らないわけね」

 少し、彼女は考える。

「おそらく、ユウトの魔導書(グリモア)は『暴食』 自己強化タイプの魔導書ってわけかしら?」

 ダンジョン『炎氷の地下牢』でのユウトを思い出した。

(ミカエルと私の2人で、ユウトと戦って勝てるかしら?)

 魔法使いのユウトが、前衛であるミカエルと真っ向勝負をしていた。

 それもレインの薬物で強化したミカエルだった。

(もっと傀儡を増やして挑みましょうかね。待っててねユウト――――)

「この第一次魔導書大戦の勝者に――――私は必ずなる」