店主が厨房に入っていた後、そこから音が聞こえてくる。

 ジュッ! と音が聞こえてくる。 どうやら、揚げ物を作っているらしい。

 パチパチと小さな気泡が弾けるような音も届く。

 それに加えて―――― 匂い。 

 どうやら、カレーというのは香辛料(スパイス)を多く使われいる刺激物のようだ。

 誘惑的な香りが鼻腔をくすぐる。 香辛料……そこでミカエルが気づいた。

「待てよ、ユウト。ふんだんに香辛料が使われている料理って事は、とんでもない金額が、この料理に使われているのではないか?」

 香辛料は希少で手に入りにくく、遠方の地域から輸入される貴重な商品。一般人には手に入らない……貴族であるミカエルも頻繁に使われるものではないのだろう。

 だが、ユウトは落ち着いて説明をする。

「ここの店主は、元冒険者だったそうだ。昔の仲間や知り合いも出世しているらしい」

「……だから?」

「知り合いの魔法使いに、新大陸やジパングまで飛んで素材を収集して貰ってるらしい。……それも日帰りで」

「日帰りで、新大陸やジパング……? そこまで飛べる魔法使いなんて限られた存在じゃないか! そんな人たちに依頼するより、普通に香辛料を買った方が安いじゃないのか?」 

「まぁ、無料で頼んでいるんだろうなぁ……」

「だんだんと怖くなってきたぞ、この店」

 そんな会話をしていると、店主が次の料理を持ってきた。

「これは?」とユウトの質問に店主はニンマリと笑い、

「こいつは、とんかつカレーだ」と皿を配る。

 基本(ベーシック)となるカレーは先ほどと同じ物――――ポークカレーだ。

 しかし、その上に黄金の色をしたとんかつが置かれている。

「ないと思うが、味に飽きたらコイツを使ってくれ」

 テーブルに置かれたのは小瓶だ。 どうやら、液体の調味料のように見えた。 

「これは?」とユウトは訊ねた。 

「醤油とソース。そして、コイツは禁じ手の調味料――――マヨネーズだ」

「……マヨネーズ?」

「気が向いたら使ってみな」と店主は軽い感じに言った。

「では――――」とユウトは食を進めた。

 最初にとんかつを見る。 

 その色合いから思い出す。このメニューを手に入れるために戦った相手――――ケンタウロスのニクシア。 彼女の黄金の鎧と斧槍――――あの激闘を思い出したら、感動もひとしお。

 それを思い出しながら口に運ぶ。

 黄金の衣はサクッとした噛み応え。 その中にある肉は弾力がある。

 しっとりとした肉の甘み。これはおそらく……高熱で揚げられた事で内部に閉じ込められた肉汁。 一瞬の間に広がる満足感に口の中に広がる至福の味わい。

 とろみがあるカレーととんかつを絡ませる。

「なるほど……」とユウトは呟いた。

 肉を包むカレーは、絶妙な調和を味合わせてくれた。

 サクサクとしたとんかつの衣は、カレーに浸されて、しっとり感が増している。

「じゃ、試しに……ソースを使おうか」

 小瓶から黒い液体をとんかつカレーにかけると、改めて食べていく。

「程よい酸味と甘み――――カレーの味が変わった!」

 ユウトの食べる速度が上がっていく。 それほどの美味しさ。

 不意に隣を見ると――――

「ミカエル、それは?」

「あぁ、店主が言っていたマヨネーズを使ってみた」

 ミカエルのとんかつカレー。その上には白い調味料が線を描いていた。

「じゃ、俺も」とマヨネーズを受け取り、使っていく。

 とんかつカレーに新しく加わったマヨネーズのクリーミーさ。

 まろやかな風味がカレーと混ざり合って、より濃厚なコクを生み出していく。

 その新しい味を―――― 調味料の組み合わせでコロコロと変化していく味を楽しみながら食べていく。

 気がつけば皿のカレーはなくなって――――

「次はこういう種類のカレーはどうだ?」

 次の料理を出すタイミングを測っていたのだろう。すぐさま、店主は新しいカレーを2人の前に並べた。

「これは!」と2人は料理のインパクトに驚いた。店主は得意げに――――

「この料理は――――茄子(なす)と野菜カレーだ」

 カレーの海に沈められた野菜たち。しかし、その多彩な色合いはカレー色に染められても、輝きを失っていなかった。

「野菜は……じゃがいも、たまねぎ、にんじん、いんげんか」

 ユウトはあえて口には出さなかった。 インパクトを受けた最大の原因――――

 素揚げされたナスが、主役として座っていた。

 紺に近しい紫色をした野菜。 内側には、なめらかな白色が透けて見えている。    

「さて……どうしたものかな?」と気圧されながらも、ユウトたちは口に運んだ。