「妙だな。出現する魔物の支配率が変わっている」

 ここはキング・ヒュドラが(ボス)として出現するダンジョン。

 主《ボス》は、取り巻きとして魔物を召喚する。

 キング・ヒュドラは蛇系魔物なので召喚する魔物も蛇系が多い。

(だが、今倒した魔物はヘルバウント―――― 狼系魔物の群れがいた)

 同時にキング・ヒュドラが2匹……それも片方は、異常な大きさなキング・ヒュドラだった。

(ダンジョンの異変……やはり、魔導書が関係しているのか?)

 もし、自分が、この魔導書を手に入れた事でダンジョンに混乱を招いてしまったのなら……

 そんな不安にかられながらもユウトはダンジョン内を駆け抜けていく。

 数時間前、メイヴと2人で通ったばかりの場所だ。 

 1人であっても攻略速度も速い。

(やはり、蛇系の魔物が少ない。 ほとんど見かけない)

 ユウトは足を止めた。 魔導書の地図に記された場所――――隠し通路がある。

「隠し通路があるはずなんだが…… 探知魔法でも反応しない。本当にあるのか?」

 地図と一致する場所。 隠し扉は――――ない。

「いや……思い出せ。 魔導書を手に入れたダンジョンは、どうやって見つけた?」

 魔力の乱れ。 僅かだが……確かに感じる。

 ユウトは、そこに手を伸ばして――――隠匿された隠し通路に入った。

 暫く進む。 魔物が出現してくるが――――そんなに強くない。

「この感覚……以前の幽霊騎士の時と同じか。それじゃ、そろそろ……」

 探知魔法。 

 すぐに反応がある。 ソイツはまるで暗殺者のような外見をしていた。

 体をローブに身を包み、顔を隠すためにフードを被っている。 

 普通の暗殺者と違うのは、ローブもフードも黒ではなく、白い所か?

 その両手には、禍々しい形状のナイフ。それが、より暗殺者らしさを醸し出している。 

(ナイフは形状から、猛毒が付加されているか? 純白のローブとフードは、むしろ暗殺者とは真逆……聖職者か?)

 しかし、紛れもなく魔物。 それだけはわかる。

 ユウトは奇襲を敢行する。 

 魔力を脚から放出して、無音で壁を登る。 上を取ったユウトは――――『炎剣(イグニスグラディウス)』――――魔法を放った。

 その効果は? 魔物は炎剣を受けて炎に包まれた。

 しかし、装備している白いローブに特殊効果でもあるのか? 

 炎はすぐに鎮火。 ダメージは見えない。

 ユウトを敵として認識したのだろう。 高所を取っている彼よりも高く飛び上がった。

「――――どうなってるんだ? 魔法で重力を操っている様子もないのかよ」

 聖職者は重力に逆らって、足から天井に着地。 

 そのまま立っているかと思ったら、天井を走り始めてユウトへの攻撃を開始する。

(接近するまでの速度は――――速い。それ以上に手数が早く、攻撃の回転率も高い!)

 一撃でも受ければ戦闘不能になるだろうナイフ。 それが高速で両手で振るわれてくる。

 しかし、ユウトにとっては幸運だった。 全身、鎧で包まれている彼にナイフで負傷する可能性は限りなく薄い。

 自身に向かってくるナイフ。 それを回避して、腕を掴む。

「この程度の膂力なら、俺の方が勝てる!」

 ユウトは力を込めて、聖職者を天井から引き剥がした。 

 そのまま、投げ技。 

 天井から床へと一気に叩きつけた。 

 かなりの落下差だ。聖職者の肉体は床と衝突した衝撃で浮き上がる。

 それだけではなく――――

「こいつはおまけだ! 食らえ!」
 
 落下の勢いを利用して倒せた聖職者の腹部へ、両膝を叩き込んだ。

 両膝から伝わるダメージは――――あまりない。

 反撃を受けないために、すぐに離れて距離を取った。

(今の感触…… 人間型の魔物ではないのか?)

 では何か? 推測するユウトだったが、結論が出るよりも聖職者の反撃が早かった。 
 
 敵の動きに、ユウトは反応が遅れた。なぜなら、予備動作なし(ノーモーション)で距離を詰められた。

「なッ!? コイツ、どういう動きを――――」と、途中でユウトは絶句した。

 なぜ、離れてたはずの距離でありながら、予備動作なく接近できたのか?

 その方法がわかったからだ。

「コイツの正体! 蛇系の魔物か!」

 聖職者は胴体を伸ばして――――上半身だけを接近させて攻撃してきたのだ。

 その猛攻を盾で弾く(パリィ)。 両腕のナイフを防ぐも――――聖職者は顔を隠していたフードが外れる。その顔は女性であったが――――蛇系魔物特有の噛み付きを仕掛けてきた。