追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 冒険者ギルドはミカエル達の救出成功に盛り上がっていた。

 しかし、その向かえの食堂。店主は入って来た客に、

「いらっしゃい。まだ開いて――――なんだ、お前か」

 入って来た人物はユウトだった。

「いいのかい? こんな所に来て。救出劇の立役者はお前だって聞いたぜ?」

「まさか、ただの噂さ。 過大評価も良い所さ」

「全く……よく言うぜ。お前が評価され難いのは、そういう所だと思うのだが」

 挨拶代わりに冗談を交わす2人だった。

「それで? 食堂に飯を食べに来たわけじゃないだろ。そういう顔してるぜ?」

「あぁ、もんろんだ」とユウトは素直に答える。店主は嫌そうな顔を見せたが、ユウトは気にせず―――――

「店主、これを見てくれ」

「コイツは例の魔導書(グリモア)じゃねぇか。また、何か変化があったのか?」

 店主は思い出す。 ユウトたちが店を呼び出す直前、魔導書に地図が増えたことを。

「いや、店主にも意見を聞きたくてな。ここを見て欲しい」

「あん?」と店主は魔導書を覗き込んだ。 ユウトが指しているのは、地図の1ヶ所。

 そこは――――

「まさか、お前……ここは『炎氷の地下牢』の地図か? 以前、見た時は別の場所だったはずだぜ?」

「おそらく、俺が『炎氷の地下牢』に入った事で地図に変化が起きたみたいだ」

「いや、待てよ」と店主は魔導書の地図に顔を近づけた。 どうやら、自分の記憶と地図を擦り合わせているみたいだ。 それから――――

「やっぱりか。この地図、俺の記憶と違う箇所が幾つかあるみたいだな。隠し部屋に隠し通路……」

「なるほど」と店主は納得したように頷く。 

「この場所にいけば、魔導書に書かれている料理の種類が増える……ってのは定番だな」

「あぁ、俺もそう思う」とユウトは同意した。

「このダンジョンを探索中に奇妙な感覚を感じる場所があった。帰って魔導書の地図と比較してみたら、完全に一致していた」

「そいつは妙な話だぜ。『炎氷の地下牢』ってのは高難易度の部類だぜ。魔法に精通した上位冒険者が出入りを繰り返してる。お前だけ気づいたって――――魔導書がお前に影響を与えてるって事じゃねぇのか?」 

 よくある話だ。 魔導書を手に入れた者が、精神に異常をきたす。

「この町で魔導書案件に一番詳しいのは――――ギルドマスターか?」 

「あいにく、俺はギルドマスターには嫌われているみたいでな。相談相手には向かないぜ」

「俺とギルドマスターは昔馴染みだ。 ヤバイって感じたら俺から話を通してやってもいい」

「いよいよ、危険な状態になった時は頼むかもしれないが……まぁ、何とかなるだろ」

「なんとかなるってお前なぁ……」

「そもそも、この魔導書は……ただの料理本だからな」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「それじゃ、料理の準備をして待っててくれ」

「料理の事なら任せとけ……って、戻ってきたばかりなのに、また『炎氷の地下牢』に行くのかよ!」 

「ダンジョンに異常があったんだ。また明日になれば、本格的なダンジョン調査が始まって入れなくなる。その前に調べに行かなければならない」

「全く、お前は冒険者の鏡だよ。いつだって冒険している」

「ありがとう。最高の誉め言葉だ」

 そんなやり取りと交わして、ユウトは食堂を出た。

 まだ、冒険者ギルドでは混雑していた。 

 ギルドへの報告と説明はメイヴに任せた。ここで知り合いに見つかるのは良くないと判断して、足早に離れた。

 今度の『炎氷の地下牢』への再アタックは1人だ。

 杖のエイムも部屋に戻してきた。 

「ここからは1人の実力頼みだ……少しだけ気分が向上している」

 気がつけば、ユウトは駆け出していた。 高揚感によるものだろうか?

 そして、僅かな時間。再びダンジョンに――――

 ――― 炎氷の地下牢 ―――

 その入り口に立った。

 周辺には、まばらではあるが人がいる。

 まだ撤退準備をしている冒険者たち。 明日の調査に向けて、準備をしているギルドの職員たち。

 忙しそうに動いていた。

 ユウトは誰にも気づかれず、息を殺し、気配を殺して、ダンジョンに潜り込む。

 まるで暗殺者か盗賊のように誰にも気づかれない。

 もしも、気がつくとしたら、ユウトと同レベルで探知魔法を使える魔法使い……くらいだろうか?

 本人は気づいてないがユウトの探知魔法は、練度が異常に高い。 

 以前、彼の探知魔法を見たメイヴが驚いたのは、S級冒険者である彼女であっても、ユウトほどの精度で探知魔法を使う者を知らなかったからだ。

 その探知魔法が、魔物の存在に反応を見せた。 少し前まで蛇の魔物が多かったはずだが―――― 

 その魔物はヘルハウンド。 狼の姿をした魔物で、高難易度のダンジョンで出現することが多い。

 獣特有の素早さと獰猛さを持っている強敵だ。 それが数匹……群れのようだ。
 
 優れた嗅覚が隠密状態のユウトに気づくも、もう遅い。 

 彼が杖を振うと魔法の斬撃が飛び出した。 容易く、ヘルハウンドを処理したユウトだったが……

「妙だな。出現する魔物の支配率が変わっている」

 何か嫌な予感がした。