目前には倒れたミカエル。 壮絶な最後――――と言うには、絶命したわけではないのだが。

 体力と共に魔力も底を尽きたユウトも、倒れ込みたい衝動に駆られるが……

「その前に、やるべき事が残っているか?」

 ジロリと視線をレイン・アーチャーに向けた。しかし、本人の反応は――――

「え!? 私? 私って、何か悪い事をした?」

 それから彼女は「ちょっと待って、言い訳を考えるから」と悩み始める。 

 その姿にユウトは「――――っ!?」と絶句するしかなかった。

「ノリでやっちゃったんだよ、正直言って。私だって予想不可能だよ。こうなるなんて誰が予想できたっていうの?」

 彼女は軽い感じで――――彼女の内面にある異常さを暴露してくいく。

「今回、私の動機はただ1つだけ。『愛と正義』なんだ。わかるかい?」

 その言葉は思いつき。 その場で取って付けたような言葉であり、とても彼女の真意が含まれているとは思えなかった。
 
「いや、わからない。俺は、お前が何を言ってるのかわからないだよ、レイン」

「例えば、ミカエル…… 私も貴族の家柄だからね、気持ちはよくわかる。
貴族は地位と名誉を死守する。それに嫌悪感を持つ者がいるけど貴族にとっては当然なんだよね。数百年前の親族が戦争に行って得た地位と名誉だからね」

 それはユウトにもわかっている。

 ミカエルの固執――――それは数百年の執着。

 自分だけの物ではなく先祖代々……数百人が押し上げた地位と名誉。

「だからね。私は彼の執着を壊してあげようって考えたんだ。そうすればいい……簡単な事だったよ」

 彼女は、レインは笑った。

「力を与えれば良いんだ。だから動機は『愛と正義』……わかる? でも、それを理由に私を『悪』だって断じるなら浅はかな意見ね。だって――――

 力があることで人は本来の姿を取り戻せるんだから」

「――――これが」

「ん? どうした、ユウト?」

「これがミカエルの望んだことだって言うのか!」 
 
「大げさだね。君だって悪いことじゃなかっただろ? 1人で主を倒すほど強くなって」

「そんな、結果論で!」

「結果論だよ? 世の中、終わりよければ全て良し! なんて言葉もあるじゃないか? 運命のサイコロ? 運命の歯車? とにかく、そういうの……もう良い? 自分の頭を言葉にするの面倒だ」

 彼女は「君も絶望から希望へ舞い上がる瞬間は、至上の快感だったはずだぜ」と付け加える。

「それでどうするの? 私がした事って冒険者(ミカエル)を強くしただけだよ。称賛されても、犯罪者のように扱われるのは心外だよ。 だって私は悪くないのだから――――」

「レイン、お前の言葉に納得できない。力を与えることが必ずしも善であるとは俺には思えない。
 君がミカエルに力を与えたことで何が起きた? その結果が今の混乱を招いている!」

 だが、ユウトの言葉にレインには、何も動じない。 何も感じていないように見える。

「もしも、不満があるなら司法の舞台に立たせればいい。国が、法が、私を悪だと断じるなら、私は甘んじて――――」

 彼女は、続きを言えなかった。

 なぜなら、メイヴが近づき――――彼女の顔面をぶん殴ったからだ。

「何をする! 貴方も私が間違って――――」

 今度も拳で彼女の言論を封じ込めた。 腹部への強打(ボディブロー)

「メ、メイヴ……それは流石にやり過ぎでは?」とユウトもドン引きだった。

「ご安心を、コツはありますが――――前後の記憶を消すように殴っています」

「そういう問題じゃない!」

 ・・・

 ・・・・・・

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 外で待っていた冒険者たちにも中から声が聞こえてきた。 それは声援――――つまり、行方不明者の発見を意味している。

 どうやら、全員無事のようだ。

 ダンジョン――――『炎氷の地下牢』から出てきたのは――――
 
 メイヴ・ ブラックウッド 

 言わずと知れたS級冒険者だ。 その後ろから行方不明だったミカエルたち3人が運び出されている。

 どうやら、酷い目にあったようだ。 歩いて、外に出れたのは1人――――確か、新人のオリビアだけ。残りの2人――――ミカエルとレインは簡易的な担架(たんか)に乗せられている。

 ミカエルは意識があるようだが、レインの方は――――

「コイツはひでぇな。どんな凶悪な魔物にやられてんだ?」

 他の冒険者たちの呟きに、動揺しているメイヴだった。