ユウトは感じている。 人の気配が遠く離れていく感覚。
自分たち以外にダンジョンを攻略しているS級冒険者も、A級冒険者も後ろに位置している。
ここが最前線――――異変が起きたダンジョン攻略の最前線に自分が立っている感覚。
つい油断をすると精神が恐怖に囚われそうになる。
(そう……ここがダンジョン攻略の最前線だ。動揺するな、ユウト……
これはお前の功績じゃないだろ? メイヴのおかげだろ? だったら――――気負うな。 お前はメイヴの支援に徹底しろ)
そうやって彼は恐怖を振り払う。
後ろ向きなとも言える彼の精神。とても、強靭な精神とは言えないものだが、それでも恐怖と向き合うには十分に有効だった。
(落ち着け。ダンジョンでは恐怖に飲まれた奴から――――パニックになった奴から死んでいく。思い出せよ、それがダンジョン攻略の鉄則であり、基本だったはずだろ?)
だが、彼はすぐに気づいた。
(馬鹿か、俺は? 既に気負っているじゃないか。精神に均等を保て)
大きく息を吸い込むと、大きく吐き出す。まるで執着を捨て去るような息吹。
邪念を振り払うためのルーチンワークだった。
「――――落ち着きましたか、ユウト?」
彼女は――――メイヴは、彼が落ち着くのを待っていたようだ。
「よかった。どうやら、私たちの目標は近いようです。 ここで、落ち着かないようでしたら、なんて声をかけようか悩んでいたところですよ」
彼女には余裕があるように見えた。 しかし、それは戦うために必要な精神状態を整えてるために、そう見えている。
彼には、それが分かるようになった。
「どうして、目標の位置が近いって思う?」
「ここを」と彼女は地面を触る。 湿った後、それでいて巨大な何かが通った跡。
「あのケイデンやエリザが言う通り、キング・ヒュドラが規格外の大きさまで進化してダンジョンを自由に徘徊してるのであれば……ここの近くに通ったに違いありません。それも、すぐ直前に――――」
「――――」と緊張が走る。
救出を待っているミカエルたちの強さは、誰よりもユウトは理解しているつもりだ。
そんなミカエルたちを壊滅状態にまで追い込んだ魔物。相手は怪物中の怪物――――
整えた精神が乱れていく事にユウトは気づき、再び呼吸から精神を整える。
それから――――
「――――よし、行こう!」と覚悟を決めた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ユウトは探知魔法を発動する。
「――――反応があった。これは……2人?」
「2人ですか? ミカエルたちは3人でしたよね?」
「おそらく、レインが周辺を警戒するために離れている。男性1人、女性1人か……たぶん、ミカエルと――――もう1人は新しい子かな? おそらく、ミカエルは怪我をしている」
「そこまで正確に把握できるのですか?」
「? 普通の探知魔法だと思うが? メイヴの仲間にも魔法使いがいるだろ?」
「……いますけど、探知魔法は魔物の気配を探したり、罠の確認にしか使えないはずですよ」
「そうなのか? 自分じゃ、よくわからないが……とにかく、急ごう」
ユウトは駆け出し、その後をメイヴは追いかける。 彼女の表情は納得していなかった。
やがて――――
「いる! そこにミカエルたちがいるぞ」
大岩の影。隠れている空間に、2人の気配を感じた。
そして、近づくとミカエルとオリビアの姿がはっきりと見えた。
「大丈夫か?」
声をかけるユウト。 最初に反応したのはオリビアだった。
「ミカエルさん、助けが来ましたよ。しっかりしてください」
彼女の声に、ミカエルは信じられない物を見たように驚く。
「――――お前は、ユウト? どうしてお前がここに」
彼、ミカエルは力なく声を出した。
「決まっているだろ? お前たちを救出に来た」
「俺は、お前を追放して、冒険者としての人生を奪おうとしたのに――――」
「今は、良いだろ? 後ろの子が俺の後任かい? よくミカエルを助けてくれた」
その声は、あくまで朗らかだ。元気付けるために皮肉交じりの冗談。
「しかし、ミカエル。腕をバッサリやられたな。待ってろ……回復薬を持ってきている」
ユウトは、ミカエルに回復薬を手渡そうとした。しかし――――
回復薬の瓶は空中で砕け散った。
攻撃。
それも、ミカエルもユウトも反応できない距離と速度による攻撃だった。
魔物か? いや、違う。 それは矢だった。
「ミカエル……止めなさい。ユウトは貴方を恨んでいるのよ? はっきり言って、彼が手渡そうとしているのは毒よ」
『高弓兵』だからこそ、ユウトの探知魔法の範囲外――――隠密行動からの超距離超精密射撃が可能なのだ。
その攻撃は―――― 『高弓兵』 レイン・アーチャーによるものであった。
自分たち以外にダンジョンを攻略しているS級冒険者も、A級冒険者も後ろに位置している。
ここが最前線――――異変が起きたダンジョン攻略の最前線に自分が立っている感覚。
つい油断をすると精神が恐怖に囚われそうになる。
(そう……ここがダンジョン攻略の最前線だ。動揺するな、ユウト……
これはお前の功績じゃないだろ? メイヴのおかげだろ? だったら――――気負うな。 お前はメイヴの支援に徹底しろ)
そうやって彼は恐怖を振り払う。
後ろ向きなとも言える彼の精神。とても、強靭な精神とは言えないものだが、それでも恐怖と向き合うには十分に有効だった。
(落ち着け。ダンジョンでは恐怖に飲まれた奴から――――パニックになった奴から死んでいく。思い出せよ、それがダンジョン攻略の鉄則であり、基本だったはずだろ?)
だが、彼はすぐに気づいた。
(馬鹿か、俺は? 既に気負っているじゃないか。精神に均等を保て)
大きく息を吸い込むと、大きく吐き出す。まるで執着を捨て去るような息吹。
邪念を振り払うためのルーチンワークだった。
「――――落ち着きましたか、ユウト?」
彼女は――――メイヴは、彼が落ち着くのを待っていたようだ。
「よかった。どうやら、私たちの目標は近いようです。 ここで、落ち着かないようでしたら、なんて声をかけようか悩んでいたところですよ」
彼女には余裕があるように見えた。 しかし、それは戦うために必要な精神状態を整えてるために、そう見えている。
彼には、それが分かるようになった。
「どうして、目標の位置が近いって思う?」
「ここを」と彼女は地面を触る。 湿った後、それでいて巨大な何かが通った跡。
「あのケイデンやエリザが言う通り、キング・ヒュドラが規格外の大きさまで進化してダンジョンを自由に徘徊してるのであれば……ここの近くに通ったに違いありません。それも、すぐ直前に――――」
「――――」と緊張が走る。
救出を待っているミカエルたちの強さは、誰よりもユウトは理解しているつもりだ。
そんなミカエルたちを壊滅状態にまで追い込んだ魔物。相手は怪物中の怪物――――
整えた精神が乱れていく事にユウトは気づき、再び呼吸から精神を整える。
それから――――
「――――よし、行こう!」と覚悟を決めた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ユウトは探知魔法を発動する。
「――――反応があった。これは……2人?」
「2人ですか? ミカエルたちは3人でしたよね?」
「おそらく、レインが周辺を警戒するために離れている。男性1人、女性1人か……たぶん、ミカエルと――――もう1人は新しい子かな? おそらく、ミカエルは怪我をしている」
「そこまで正確に把握できるのですか?」
「? 普通の探知魔法だと思うが? メイヴの仲間にも魔法使いがいるだろ?」
「……いますけど、探知魔法は魔物の気配を探したり、罠の確認にしか使えないはずですよ」
「そうなのか? 自分じゃ、よくわからないが……とにかく、急ごう」
ユウトは駆け出し、その後をメイヴは追いかける。 彼女の表情は納得していなかった。
やがて――――
「いる! そこにミカエルたちがいるぞ」
大岩の影。隠れている空間に、2人の気配を感じた。
そして、近づくとミカエルとオリビアの姿がはっきりと見えた。
「大丈夫か?」
声をかけるユウト。 最初に反応したのはオリビアだった。
「ミカエルさん、助けが来ましたよ。しっかりしてください」
彼女の声に、ミカエルは信じられない物を見たように驚く。
「――――お前は、ユウト? どうしてお前がここに」
彼、ミカエルは力なく声を出した。
「決まっているだろ? お前たちを救出に来た」
「俺は、お前を追放して、冒険者としての人生を奪おうとしたのに――――」
「今は、良いだろ? 後ろの子が俺の後任かい? よくミカエルを助けてくれた」
その声は、あくまで朗らかだ。元気付けるために皮肉交じりの冗談。
「しかし、ミカエル。腕をバッサリやられたな。待ってろ……回復薬を持ってきている」
ユウトは、ミカエルに回復薬を手渡そうとした。しかし――――
回復薬の瓶は空中で砕け散った。
攻撃。
それも、ミカエルもユウトも反応できない距離と速度による攻撃だった。
魔物か? いや、違う。 それは矢だった。
「ミカエル……止めなさい。ユウトは貴方を恨んでいるのよ? はっきり言って、彼が手渡そうとしているのは毒よ」
『高弓兵』だからこそ、ユウトの探知魔法の範囲外――――隠密行動からの超距離超精密射撃が可能なのだ。
その攻撃は―――― 『高弓兵』 レイン・アーチャーによるものであった。