ユウトは装備を新調するために出かけた。 その理由の1つには―――― 

 ――――前夜――――

 食事を終えたユウトは、今後の話をメイヴに相談していた。

「そうだな……ユウト、あなたは魔法剣士になるつもりはありますか?」

「魔法剣士!? この俺が?」

「えぇ、そんなに驚くことはありません。難しく考えないでください」とメイヴは微笑んだ。 

「いいですか? 大きく分けて魔法剣士には2つのタイプがいます。魔法が使える剣士。剣が使える魔法使い」

「本職が魔法使いの俺だったら、すぐに剣が使える魔法使いになれる?」

 メイヴは頷いた。

「ユウトだったら3か月。その程度の時間でも集中して剣を学べば、立派な魔法剣士になれますよ」

「なるほど、あくまで剣は予備武器として使うだけか……う~ん、でもなぁ」

 ユウトは渋い顔をする。

「あなたが悩んでいる理由はわかりますよ。魔法剣士は魔法も剣も中途半端になる。イメージが強いからでしょ?」

 メイヴの言葉に彼は素直に頷いた。しかしメイヴは――――

「その印象は間違いです」と一刀両断。

「剣士は剣が強ければいい。魔法使いは魔法が強ければいい。その考えは、前衛や後衛と仲間の役割が決まっていて、連携の練度の高い仲間(パーティ)であることが前提なのです」

「――――確かに、なるほど」と頷く。 少し考えて、反論する部分が見当たらなかったからだ。

「少ない人数で冒険に出る場合。あるいは単独行動を強いられる状況……ならば、魔法も使えて、剣も使える者の方が求められるのです」

 それはメイヴ・ブラックウッドという冒険者が、少数精鋭の仲間たちと旅に出ているS級冒険者ならではの考えなのだろう。

 しかし、彼は、こう考えた。それじゃ……

(それじゃ、魔法剣士の立ち回りを覚え、接近戦に有効な魔法の威力を高めれば――――そもそも剣を振るう必要はないのでは?)

 酒が思考に影響を与えたのかもしれない。 しかし、ユウトの思い付きは、彼自身にとって非常に魅力的なものに思えた。 だから彼は――――

(だったら、俺は――――1人で戦える魔法使いを目指す。 孤高な魔法使い――――そう! 孤高特化型魔法使いだ!)

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・

ユウトは店に入る。 小さな店だが、熟練のドワーフ職人が開いている店だ。

だが、店には――――

「いらっしゃい、ユウトさん」と可愛らしいドワーフの少女が接客をしてくれる。

 店の奥で武器、防具を作ってるドワーフ職人の娘さんだそうだ。

 名前はミーナという少女――――いや、ドワーフの女性は年齢が分かり難い。

 幼い少女に見える彼女もユウトよりも年上という噂も聞いたことが――――

「ん? なんです? 変なことを考えてません?」

「―――――いや、何も考えてない」

「ん~ 変な間があったのが気になりますが……今日が何の御用ですか?」

「そうだな。まずは――――」と愛用の杖を前に出した。

「コイツを買い取って貰いたい」

「これってユウトさんの愛用の杖じゃないですか? どうしたのですか!?」 

「気に入って、使い続けていた杖だけど……冒険者として再スタートをするために必要になのは金だからね。いつ尽きるかもわからないからね……」

 ユウトは、誤魔化すために笑おうとした。しかし、うまくいかなかった。
 
「えっと……鑑定します。少し、待っててください」

 ミーナは杖を受け取る。なぜか、慌てたように店の奥へ走って行った 

(もしかしたら迷惑なのかもしれない。ミカエルたちから不用品扱いされた古い杖。買い取り拒否をされても仕方ないか)

 そんな事を考えながら、ミーナが戻って来るのを待つ。

 やがて、帰ってきたミーナは――――

「申し訳ありません。この杖は、買い取りができません」

 そう言って頭を下げた。

「やっぱり……中古でも売れない程度の価値しか――――」

「いえ、逆です!」

「え? 逆ってどういうこと?」

「もしかして、ユウトさん。この杖の価値をご存じないのですか?」

「価値? いや、貰い物の杖だから……」とユウトは杖を手に入れた時のことを思い出す。

(確か、あの依頼でメイヴと知り合っただったはずだよな……)

 それは、数年前の話。エルフが住む森にドラゴンが襲われた時のこと。

 冒険者ギルトからの緊急依頼を受けたユウト達は素早くエルフの森に到着。そして、ドラゴン討伐だけではなく、真の黒幕を見破ったのだ。

 そのお礼として、特別に譲渡されたのが彼の杖だった。 

「依頼達成の報酬とは別にタダで貰った物。そんなに値打ち物のはずはないと思うが?」

「とんでもない!」とミーナは首を振った。

「この杖は、聖樹と言われる木からできてる物です。空気中の魔素から魔力を回復効果があるはずです。それに杖になっても聖樹は生き続けていて、真っ二つに砕かれても元に戻る再生能力があります」

「それは、確かに思い当たる事はある」

 魔法使いであるユウトは、自身の魔力回復量が増加している事を気づいていたが、大した効果ではないと思い込んでいたのだ。

「それより凄いのが、先端の魔石ですよ! 長寿のエルフたちが、時間をかけて研磨してきたのでしょう……異常なほどに不純物がなく、魔力の浸透度が高い――――」

「え、えっと、待ってくれ」とユウトは興奮状態のミーナを止めた。

「え? なんですか?」

「そんなに凄い杖って事はよくわかった。それじゃ、なんで買い取って貰えないのさ?」

「それは……」とミーナは言い難そうだった。

「この杖には、国宝級の値が付くはずです。この店では買い取るほどの資金がないのです」

「価値が凄すぎて買い取って貰えないってことか……」

 ユウトは天を仰いだ。 

 今まで愛用の杖として、ぞんざいに扱ってきた杖。それが、とんでもない品物だったと初めて実感したのだ。