彼の身に不思議な事が起きた。

 食事を終えた瞬間――――彼の体は、光に包まれた。

 どうやら、その異常に気付いているのはユウトだけのようだ。

 店主も、メイヴも、エイムも……気づいている様子はない。

 「なんだ、これは?」と困惑するユウト。彼の耳に聞きなれない声が聞こえてきた。

『有資格者……資格を認められた者よ 貴方は条件を満たしました 祝福を――――それから、新たなる条件を提示させていただきます』

 女性の声。 しかし、人間とは思えない神聖さを有した音。

 神々、あるいはそれに準する者の声だとユウトは認識した。

 冒険者である彼に取っては初めての経験ではない。

 神秘的で、超常的な存在との邂逅――――しかし、それは、善なる者か、悪なる者かわからない。

 だが、この時にユウトが感じたものは――――

(体が強靭に、魔力量も増えていく。まるで生まれ変わっていくような感覚。これが――――祝福の正体?)

 強制的に体が強化されていく。

 この異常状態。 心当たりは――――ある。

(隠蔽されていた古代ダンジョン。そこで手に入れた魔導書(グリモア)……まさか、この現象は――――)

「魔導書に書かれた料理を食べたから? しかし――――」

 ユウトは、同じ料理を食べたメイヴとエイムを見た。

 彼女たちに異変は見えない。 きっと、この神秘の光も、声も届いていない。
 
「俺が魔導書を手に入れたから? 有資格者ってやつだから俺だけ、魔導書の影響を受けるのか?」

 見れば、テーブルに置かれた魔導書もユウトと同じ光に包まれている。

『それでは、新たなる力を――――強き神秘を求めてください。貴方は有資格者―――― 王となる資格を持つ―――― 王権者――――』

 声が小さく、やがてユウトを包んでいた光と同じように消えていった。

「あれは一体……なんだったのか?」

 状況が飲み込めず、呆けていたユウトに――――

「ご主人さま、神秘的な存在が訪れてませんでしたか?」  

「お前も気づいてたのか、エイム?」

「はい、声や姿はわかりませんでしたが、神秘の気配は感じました」

「神秘の気配?」 

 なんだそれ? 神秘に気配なんてものが存在しているのかと疑問に思わなくもないユウトであったが――――

「捉えれたのは気配だけでした。おそらく、わたしよりも上位存在ですね。どうやって知り合ったのですか?」

「いや、別に知り合ったわけじゃないが……エイムよりも上位の神秘かぁ」

 彼女は、メイド服をきた幼女にしか見えないが、その正体はエルフが信仰を捧げる聖樹から生まれた杖――――聖樹の化身である。

 そんな彼女が、自分よりも上という存在の言葉。だったら――――

「だったら、あの声を信じてもいい……かな?」と魔導書に手を伸ばした。

 すると、異変に気付く。消えたと思われた光が魔導書に残っている。

 手に取って見なければわからない小さな光……その箇所であるページを開く。

 すると――――

「これページが増えてる? 魔導書に地図が追加されている?」

 一体、どこの地図か? その場所に何がるのか?

 既存の地図と照らし合わせたい。そう思ったユウトであったが――――

 その思考は外から鳴り響く鐘の音で消し去られた。

 外では、『カンカンカン……』と甲高い鐘が鳴り響いている。

 メイヴは立ち上がると、

「これは、緊急事態を知らせる鐘……冒険者をギルドへ緊急収集するものですね」

 飛び出して行こうとする。 しかし、すぐに振り向いて、

「どうかしましたかユウト? 早く、貴方も行きましょう」

 彼は迷っていた。 追放されたばかりの自分が冒険者として認められるのか?

 しかし、メイヴは、彼女は当たり前のように冒険者として認めてくれている。

「よし、行こう」とユウトは駆け出した。 

「待ってください、ご主人さま!」とエイムもユウトの背中に飛び乗った。

 その後ろ姿に、店に残る店長は彼等に声をかけた。

「無事に帰ってこいよ。美味い飯を作って待っててやるからな!」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

 ――― 冒険者ギルド ―――

 緊急収集の鐘は町中に聞こえるようにできている。

 依頼で街の外に出ている冒険者以外は、至急、集まらなければならない。

 これは冒険者の義務とされている。

「ほとんどの冒険者は集まっていますね。普段は、見かけない人たちもいます」

 メイヴの言う通りだった。滅多に見かけない冒険者が多い。

 いつ依頼を受けて、報酬を貰いにきているのか? 
 
「でも……」

「え? どうかしましたか? こんな場所で顔を見つめられてると……」

(この中で一番、名が知れているのはメイヴなんだよな)

 そんな事を考えてると、騒がしかった冒険者たちが急に静まり返った。

 見れば冒険者ギルドの代表である老人、ギルドマスターが姿を見せた。

 元々、魔法使いだったのだろう。 木の杖をつき、フード付きの服を着ていた顔を隠している。

 性別は不明だ。そんなギルドマスターが重い口を開いた。

「皆の衆……よく集まってくれた。緊急事態のため、長い挨拶はなしじゃ」

 そう言うって説明を始める。