この食堂の店主は、元冒険者だ。 鍛えられた肉体は現役冒険者にも見劣りしない。
そんな店主が自ら――――
「注文のポークステーキ……できたよ」とテーブルに料理が運ぶ。
ユウトが注文したものが、通常の店員が1人では運べないほどに巨大だからだ。
「な、なんだ? この料理は?」とメイヴが目を丸くする。
「巨大な肉塊ではないか! それにポークステーキだと? 豚肉で、この大きさでは、中まで火が通らず危険ではないのか?」
彼女の言う通り、鉄板と一体化した皿の上に乗せられているのは肉塊そのもの。
巨大な、ただただ巨大な――――巨大肉塊ポークステーキだ。
キロ単位の肉は、もはや暴力と同じ。 見た目のインパクトと香りのインパクト、そして味のインパクト。 五感それぞれに、様々な衝撃を与える。
そして、表面に入った黒い焦げ目は、ここの店主と同じ――――武骨な冒険者を連想させる。
それに付け合わせのポテトサラダとホカホカのご飯を忘れてはならない。
「大丈夫だよ、メイヴ。ここは、味も量も信頼できる料理を出しくれる」
そう言うと、ユウトはナイフとフォークを手に取った。
ナイフからは、カリカリに焼かれた表面の硬さを感じる。 しかし、それを越えると吸い込まれるようにナイフが入って行く。
切り裂かれると同時に、内に閉じ込められていた肉汁が外に流れていく。
そして、明らかになったポークステーキの内部……その色は白寄りのピンクだ。
「なっ! 中までしっかりと火が通っている! なぜだ!」とメイヴは驚く。
「表面の焦げは、後から強い火力で付けた物。それまで、しっかりと低温で熱を入れていたから、この巨大な肉であっても火が通っているのさ……」
「さて……」とユウトは、切り分けた――――それでも巨大な肉塊であるが――――口に運ぶ。
まず最初に感じたのは、焦げがつくほどに焼かれた表面。
香ばしく、カリカリと焼かれた独特の食感。その直後には豚肉の甘みが訪れた。
豚肉の脂肪が過熱により溶けだし、プルプルとした食感。
柔らかく、それでいて弾力もしっかりとある。
「うん、美味い。これなら――――いくらでも食べれそうだ」
彼の――――ユウトの胃袋には、もしかしたら巨大なドラゴンが住み着いているのかもしれない。
過度の餓えを満たすように、口に運んでいく。 そのたびにユウトは幸福を感じているのだ。
その様子を見ていたメイヴは、周囲の異変に気付いた。
「なっ! いつの間に、こんなに!」と周囲を見渡す。
店中の客たちは、ユウトたちのテーブルを囲んでいる。 見ろ! 声援を上げ、賭けを始めている者もいるではないか!
「はいはい! まだ、賭けれるよ。王者が、どのくらいで食べ終えるのか! 賭けた、賭けた!」
賭け事の胴元は、「食べきるか? それとも残すか?」で賭けを行っていない。
もはや、完食する事は当たり前になっているのだろう。
「いや、そんな事よりも王者って呼ばれているのか? お前?」
そんなメイヴの呆れ声も、周囲の歓声も、ユウトは慣れているのだろう。
料理に集中しながらも、その美味しさに笑みを浮かべていた。
彼の食事風景は、闘技場での戦いを連想させる。
武器の如くナイフとフォークは振るわれ、まるで格闘技のようにテーブルの上で戦っている。
その姿は、人々を熱狂させるに相応しい。
彼――――ユウト・フィッシャーが食事をするだけで、人々の感情を激しく揺さぶるのだ。
そして――――
「ごちそうさま」とユウトは空になった皿の上にナイフとフォークを斜めに並べて置いた。
結果? 無論、完食だ。
彼をまるで英雄や勇者のように称える声。 中には――――
「いいもの見せてもらった。酒を一杯、おごらせてくれよ」
そう話しかける者もいたが、それはユウトに代わりメイヴが断った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「もし、あなたが許してくれるなら私は……あなたを生まれ故郷のエルフの森に連れ帰って――――」
ユウトは、そんな夢を見た。 いや、もしかしたら実際にメイヴに言われた言葉かもしれないが、詳細が思い出せない。
目が覚める。 ここは彼が借りている部屋。
ぼんやりと、昨日の記憶が曖昧だ。飲めない酒を無理やり飲んだのが原因かもしれない。
不思議とメイヴの香りがベットに残っている。
「もしかしたら、彼女がここまで運んでくれたのかもしれないなぁ……悪い事をした」
「よし!」と自分に気合を入れるように声を出した。
冒険者仲間から追放された。それでも生きて行かなければならない。
しばらくは1人で冒険者ギルドの依頼をこなすことになるだろう。
まずは――――
「まずは、防具と武器の新調か」とベッドから起き上がり、出かける準備をした。
昨夜の酔いが原因で、なぜ自分が裸で寝ていたのか疑問にも思わなかったユウトだが、それが後に混乱と大事件を呼び寄せる事になるのだが――――
それを今の彼は知る由もなかった。
そんな店主が自ら――――
「注文のポークステーキ……できたよ」とテーブルに料理が運ぶ。
ユウトが注文したものが、通常の店員が1人では運べないほどに巨大だからだ。
「な、なんだ? この料理は?」とメイヴが目を丸くする。
「巨大な肉塊ではないか! それにポークステーキだと? 豚肉で、この大きさでは、中まで火が通らず危険ではないのか?」
彼女の言う通り、鉄板と一体化した皿の上に乗せられているのは肉塊そのもの。
巨大な、ただただ巨大な――――巨大肉塊ポークステーキだ。
キロ単位の肉は、もはや暴力と同じ。 見た目のインパクトと香りのインパクト、そして味のインパクト。 五感それぞれに、様々な衝撃を与える。
そして、表面に入った黒い焦げ目は、ここの店主と同じ――――武骨な冒険者を連想させる。
それに付け合わせのポテトサラダとホカホカのご飯を忘れてはならない。
「大丈夫だよ、メイヴ。ここは、味も量も信頼できる料理を出しくれる」
そう言うと、ユウトはナイフとフォークを手に取った。
ナイフからは、カリカリに焼かれた表面の硬さを感じる。 しかし、それを越えると吸い込まれるようにナイフが入って行く。
切り裂かれると同時に、内に閉じ込められていた肉汁が外に流れていく。
そして、明らかになったポークステーキの内部……その色は白寄りのピンクだ。
「なっ! 中までしっかりと火が通っている! なぜだ!」とメイヴは驚く。
「表面の焦げは、後から強い火力で付けた物。それまで、しっかりと低温で熱を入れていたから、この巨大な肉であっても火が通っているのさ……」
「さて……」とユウトは、切り分けた――――それでも巨大な肉塊であるが――――口に運ぶ。
まず最初に感じたのは、焦げがつくほどに焼かれた表面。
香ばしく、カリカリと焼かれた独特の食感。その直後には豚肉の甘みが訪れた。
豚肉の脂肪が過熱により溶けだし、プルプルとした食感。
柔らかく、それでいて弾力もしっかりとある。
「うん、美味い。これなら――――いくらでも食べれそうだ」
彼の――――ユウトの胃袋には、もしかしたら巨大なドラゴンが住み着いているのかもしれない。
過度の餓えを満たすように、口に運んでいく。 そのたびにユウトは幸福を感じているのだ。
その様子を見ていたメイヴは、周囲の異変に気付いた。
「なっ! いつの間に、こんなに!」と周囲を見渡す。
店中の客たちは、ユウトたちのテーブルを囲んでいる。 見ろ! 声援を上げ、賭けを始めている者もいるではないか!
「はいはい! まだ、賭けれるよ。王者が、どのくらいで食べ終えるのか! 賭けた、賭けた!」
賭け事の胴元は、「食べきるか? それとも残すか?」で賭けを行っていない。
もはや、完食する事は当たり前になっているのだろう。
「いや、そんな事よりも王者って呼ばれているのか? お前?」
そんなメイヴの呆れ声も、周囲の歓声も、ユウトは慣れているのだろう。
料理に集中しながらも、その美味しさに笑みを浮かべていた。
彼の食事風景は、闘技場での戦いを連想させる。
武器の如くナイフとフォークは振るわれ、まるで格闘技のようにテーブルの上で戦っている。
その姿は、人々を熱狂させるに相応しい。
彼――――ユウト・フィッシャーが食事をするだけで、人々の感情を激しく揺さぶるのだ。
そして――――
「ごちそうさま」とユウトは空になった皿の上にナイフとフォークを斜めに並べて置いた。
結果? 無論、完食だ。
彼をまるで英雄や勇者のように称える声。 中には――――
「いいもの見せてもらった。酒を一杯、おごらせてくれよ」
そう話しかける者もいたが、それはユウトに代わりメイヴが断った。
・・・
・・・・・・
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「もし、あなたが許してくれるなら私は……あなたを生まれ故郷のエルフの森に連れ帰って――――」
ユウトは、そんな夢を見た。 いや、もしかしたら実際にメイヴに言われた言葉かもしれないが、詳細が思い出せない。
目が覚める。 ここは彼が借りている部屋。
ぼんやりと、昨日の記憶が曖昧だ。飲めない酒を無理やり飲んだのが原因かもしれない。
不思議とメイヴの香りがベットに残っている。
「もしかしたら、彼女がここまで運んでくれたのかもしれないなぁ……悪い事をした」
「よし!」と自分に気合を入れるように声を出した。
冒険者仲間から追放された。それでも生きて行かなければならない。
しばらくは1人で冒険者ギルドの依頼をこなすことになるだろう。
まずは――――
「まずは、防具と武器の新調か」とベッドから起き上がり、出かける準備をした。
昨夜の酔いが原因で、なぜ自分が裸で寝ていたのか疑問にも思わなかったユウトだが、それが後に混乱と大事件を呼び寄せる事になるのだが――――
それを今の彼は知る由もなかった。