「この姿では初めましてですね、ご主人さま! 改めてよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる彼女はユウトの杖――――その化身らしい。 しかし、彼の目から見て、彼女はエルフの子供のようにしか見えない。
加えて……彼女は、従者のような服装をしていた。
いわゆるメイド服ってやつだ。 ミーナの趣味で、看板娘として仕事の手伝いをしていたらしい。
「なるほど、不思議なこともあるものだ……」で終わらないのが世知辛い現実って言うものだ。
神秘に詳しい魔法使いのユウトですら聞いた事のない事例。 そもそも本当に杖が幼女に、人間に変身することなんてあり得るのだろうか?
「ありますよ?」と顔を見せたミーナが答える。
「――――なに?」と訝がるユウトだったが、店の奥からドワーフ職人も顔を出して、娘の言葉に追随する。
「ワシらはドワーフじゃからな。エルフ文化はお主よりも詳しいわけよ。そういう話も何度も聞いているわい」
エルフとドワーフは仲が悪い。
正確や文化……結局は相性が悪いってことなのだろうが……エルフもドワーフも同じ長寿種。何百年と生きてる彼等が言うなら説得力がある。
今も、ちょこちょこと店内を走り回っている杖の化身に目を向ける。
「どうかしましたか、ご主人さま?」
「……そのご主人さまっては止めてもらってもいい?」
年端も行かない女の子に『ご主人さま』と呼ばれると、背中がムズムズする感覚になったからだ。
「ご主人さまは、ご主人さまなのではないですか?」
「う~ん、ご主人さま以外の呼び方がいいかな。世間体もあるから」
「はい! わかりました、ご主人さま!」
「……(これ、わかってないなぁ)」とユウトは天を仰いだ。
一方、ドワーフの親子は――――
「そんじゃ、保護者も来たことだ。達者に暮らせよ」
「杖の化身ちゃん、また来てもいいからね! また手伝ってくれたら、お小遣いあげるからね!」
幼女と別れの挨拶をしていた。
「待ってくれ……この子、俺が預かるのか?」
ユウトの言葉に親子は非難の視線を向ける。
「当り前じゃろ? ここは武器や防具を売る店じゃぞ。うちは、奴隷商なんてやっちゃおらん。女の子を、それもエルフ族が奉るような聖樹からできた杖の化身だって? 簡単に預かるわけにはいかんわ!」
「お父さんの言う通りです。子供は両親と一緒に暮らすのが一番良いに決まっています」
元々、杖を店へ質に出したはずだったが……あの時、使った金額は、そのまま借金の形に変わった。
「なら、最初から借金で良かったじゃないか……」
そんな事を呟きながら、ユウトを店を出た。 もちろん、隣には杖の化身がメイド服を着たまま歩いている。
「さて、どうするか? エルフのことならエルフに…… 彼女に聞くか」
ユウトと杖の化身は、彼女の家に向かった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
S級冒険者 メイヴ・ブラックウッドの朝は遅い。
特に今日は、ダンジョンに起きた異変について情報収集を行っていた。
いつ、冒険者ギルドから直接的な依頼を受けても良いように、仲間たちと調査に行く準備を行っていたからだ。
彼女が寝泊りしている場所は、ギルドに近い宿。 S級冒険者が借りるにしては狭く簡素な部屋――――エルフらしくもある。
だから、控えめなノックでも彼女の目を覚まさせるには十分だった。
「どなたですか?」と寝不足からだろうか? 自分でも驚くほど不機嫌な声が出た。
ノックの相手は――――
「えっと……ユウト。ユウト・フィッシャーだけど、相談があって」
「なん……だと!」とメイヴは一瞬で目が覚めた。
彼女にとって、ユウトは婚約者だ。 あの日、酒を飲んで酔っ払っていたユウトにプロポーズをして、ユウトはそれを受けた。
ユウト本人には、その記憶も残っておらず、自覚もないのだが……
少なくとも、彼女にとってユウトは婚約者であった。それも数日間、連絡が途絶えていた婚約者……だ。
「今まで、どこで何をしていのですか!」
メイヴはドアを開けた勢いのまま、彼に抱きつこうとする。
しかし、その直前に気づいた。 彼の横に小さな少女が立っていることに。
「ユウト? この子は一体? エルフの女の子に見えますが?」
「あぁ、メイヴ。今日はその事で話が……」
しかし、杖の化身は―――
「初めまして、ご主人さまの知り合いですか? よろしくお願いします」
「ご、ご主人さま? まさか、ユウト……お前にそんな趣味があったのか!」
驚き、口をパクパクさせる彼女。 それから、彼女は呟く。
「そんな趣味があるなら、言ってくれれば私が代わりに……ご主人さまと呼んで上げれるのに……」
そんな彼女の呟きは、幸いにもユウトの耳にまでは届かなかったらしい。
幸い……なのだろうか?
ペコリと頭を下げる彼女はユウトの杖――――その化身らしい。 しかし、彼の目から見て、彼女はエルフの子供のようにしか見えない。
加えて……彼女は、従者のような服装をしていた。
いわゆるメイド服ってやつだ。 ミーナの趣味で、看板娘として仕事の手伝いをしていたらしい。
「なるほど、不思議なこともあるものだ……」で終わらないのが世知辛い現実って言うものだ。
神秘に詳しい魔法使いのユウトですら聞いた事のない事例。 そもそも本当に杖が幼女に、人間に変身することなんてあり得るのだろうか?
「ありますよ?」と顔を見せたミーナが答える。
「――――なに?」と訝がるユウトだったが、店の奥からドワーフ職人も顔を出して、娘の言葉に追随する。
「ワシらはドワーフじゃからな。エルフ文化はお主よりも詳しいわけよ。そういう話も何度も聞いているわい」
エルフとドワーフは仲が悪い。
正確や文化……結局は相性が悪いってことなのだろうが……エルフもドワーフも同じ長寿種。何百年と生きてる彼等が言うなら説得力がある。
今も、ちょこちょこと店内を走り回っている杖の化身に目を向ける。
「どうかしましたか、ご主人さま?」
「……そのご主人さまっては止めてもらってもいい?」
年端も行かない女の子に『ご主人さま』と呼ばれると、背中がムズムズする感覚になったからだ。
「ご主人さまは、ご主人さまなのではないですか?」
「う~ん、ご主人さま以外の呼び方がいいかな。世間体もあるから」
「はい! わかりました、ご主人さま!」
「……(これ、わかってないなぁ)」とユウトは天を仰いだ。
一方、ドワーフの親子は――――
「そんじゃ、保護者も来たことだ。達者に暮らせよ」
「杖の化身ちゃん、また来てもいいからね! また手伝ってくれたら、お小遣いあげるからね!」
幼女と別れの挨拶をしていた。
「待ってくれ……この子、俺が預かるのか?」
ユウトの言葉に親子は非難の視線を向ける。
「当り前じゃろ? ここは武器や防具を売る店じゃぞ。うちは、奴隷商なんてやっちゃおらん。女の子を、それもエルフ族が奉るような聖樹からできた杖の化身だって? 簡単に預かるわけにはいかんわ!」
「お父さんの言う通りです。子供は両親と一緒に暮らすのが一番良いに決まっています」
元々、杖を店へ質に出したはずだったが……あの時、使った金額は、そのまま借金の形に変わった。
「なら、最初から借金で良かったじゃないか……」
そんな事を呟きながら、ユウトを店を出た。 もちろん、隣には杖の化身がメイド服を着たまま歩いている。
「さて、どうするか? エルフのことならエルフに…… 彼女に聞くか」
ユウトと杖の化身は、彼女の家に向かった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
S級冒険者 メイヴ・ブラックウッドの朝は遅い。
特に今日は、ダンジョンに起きた異変について情報収集を行っていた。
いつ、冒険者ギルドから直接的な依頼を受けても良いように、仲間たちと調査に行く準備を行っていたからだ。
彼女が寝泊りしている場所は、ギルドに近い宿。 S級冒険者が借りるにしては狭く簡素な部屋――――エルフらしくもある。
だから、控えめなノックでも彼女の目を覚まさせるには十分だった。
「どなたですか?」と寝不足からだろうか? 自分でも驚くほど不機嫌な声が出た。
ノックの相手は――――
「えっと……ユウト。ユウト・フィッシャーだけど、相談があって」
「なん……だと!」とメイヴは一瞬で目が覚めた。
彼女にとって、ユウトは婚約者だ。 あの日、酒を飲んで酔っ払っていたユウトにプロポーズをして、ユウトはそれを受けた。
ユウト本人には、その記憶も残っておらず、自覚もないのだが……
少なくとも、彼女にとってユウトは婚約者であった。それも数日間、連絡が途絶えていた婚約者……だ。
「今まで、どこで何をしていのですか!」
メイヴはドアを開けた勢いのまま、彼に抱きつこうとする。
しかし、その直前に気づいた。 彼の横に小さな少女が立っていることに。
「ユウト? この子は一体? エルフの女の子に見えますが?」
「あぁ、メイヴ。今日はその事で話が……」
しかし、杖の化身は―――
「初めまして、ご主人さまの知り合いですか? よろしくお願いします」
「ご、ご主人さま? まさか、ユウト……お前にそんな趣味があったのか!」
驚き、口をパクパクさせる彼女。 それから、彼女は呟く。
「そんな趣味があるなら、言ってくれれば私が代わりに……ご主人さまと呼んで上げれるのに……」
そんな彼女の呟きは、幸いにもユウトの耳にまでは届かなかったらしい。
幸い……なのだろうか?