追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 その日、冒険者たちはダンジョンの異常に気付き始めていた。

 冒険者たちは情報交換を盛んに行い、ダンジョンに行く前に真偽不明の噂を考察する。

「通常より、魔物が強化されている。現れるはずのない場所に、現れるはずのない魔物が出現している」

「希少な素材が、大量に手に入った。市場の相場が崩れるために隠している連中がいるらしい」

「まだ様子見の段階だが……帰還してない冒険者たちは少なくない」

「冒険者ギルドが動くか? それより、ギルドを越えて軍が出動する可能性が高いか?」

 不穏な噂。 前例がない事件が起こっている?

 そんな時に、ユウトは町に帰ってきた。

「……妙な雰囲気だな。同業者たちが浮足立っている?」

 情報収集の必要を感じながらも、まずは帰還後に向かうべき予定を立てていた場所に急ぐ。

 その後ろで、前記とは全く関係ない噂が流れているが――――
「おい、ユウトだぞ。帰ってきたのか?」

「本当か? 相当、もめてるだろ? あのメイヴ・ブラックウッドと婚約して逃げたとか……」

「らしいな……S級冒険者を口説いて、姿を消した」

「おいおいおい、死ぬわアイツ」

――――ついぞ彼に届く事はなかった。

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 目的地。 そこは冒険者ギルド……その向いの建物だ。

 大食漢の冒険者たちが冒険帰りに集まる食堂。 

 ユウトが、巨大なポークステーキを食べた場所がこの食堂だ。

 彼が中に入ると――――

「まだ、開いてないよ。夕方から――――なんだ。お前か、王者(チャンピオン)

 元冒険者の店主は1人で掃除をした。

「あぁ、店主。今日は頼み事があってきたんだ」

「アンタが俺に? ソイツは光栄だな。どんな無茶難題を持ってきた?」

「これを見てくれ」と取り出したのは、一冊の本だった。

「それは……魔導書(グリモア)か? 現役時代の俺なら、ツテはあったが、今は―――――」

「いや、ダンジョンからの読みながら帰ってきた。翻訳は済んでいる」

 ユウトは雑囊から紙の束を取り出した。 彼の言う通り、魔導書を訳した物のようだ。

「そう言えば王者の本業は魔法使いだったな。魔導書への知識はあるのだろうが、この量を短時間で写し書くとは……これは?」 

 店主は、渡された紙を読んで驚きの声を上げた。

「気づきましたか。 さすが、本職の方だ……この魔導書に書かれている内容。それは料理のレシピだ」

「――――ッ! コイツは傑作だぜ」と店主は笑った。

「貴重な魔導書だと思った本が、料理本だったとは残念だったな」

「残念? とんでもない」とユウトは首を横に振る。

「魔導書が作られた古代文明を解き明かす。魔法使いたちには、それが使命と考えている連中は山のようにいるのさ。この料理を知る事は大きな一歩になる」

「へぇ、そういうものなのか? まぁ、料理人の俺からしたら、嬉しい言葉だが……いや、まさか、お前……」

「あぁ、店主。この料理本に書かれたメニューを作ってくれないか?」

「――――」と店主は、真面目な顔付に変わる。 

「この料理を再現するには何日かかる?」

「何日? この量を? どのくらいの料理数が書かれていると思っている?」

「……かなり、日時がかかるのか? いくらでも待つさ」

「早とちりとするな。この俺なら、何日もかからない。1日待て――――今日は臨時休業で材料を調達してくる」

「本当か? それなら、金は――――」

「いらねぇよ。無料でやってやる。その代わり、作った料理を店に出す許可をくれよ」

 料理が書かれた紙を店主はパラパラとめくる。

「現在じゃ、手に入らない材料もあるな。代用でもいいか? 味も現代で通じるものにアレンジして――――」

「できるだけ忠実に再現してもらいたいけど……まぁ、店主にまかせるさ」

「わかった。では、明日――――同じ時間に来てくれ」

 そんな約束を交わして、ユウトは店を出た。

 それから――――

「鎧を修理するか? トレントの巨大ワニに噛み付かれた後を直さないと」 

 杖を売った店、ドワーフの少女であるミーナがいる店に向かった。

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 店の奥。

 ユウトは借りた装備を着込んだ。 

 黒ガラスで覆われた兜。 革の手袋。足も革製品で保護する。

 手にしたのは鉄の棒。 薬品が入っていて――――

 『(イグニス)』と、ユウトは魔法で鉄の棒――――通称、溶接棒に熱を灯らせた。

 これで、鎧の穴が空いた部分を溶かしながら、直して行くのだ。

 ちなみに裸眼で炎を見てはいけない。 黒いガラスで目を保護しないと、あまりの光で目が焼かれるのだ。

 目が焼かれるとは、物騒な表現だろう。しかし、1日中、目の痛みに耐える事を考えたら――――

「相変らず、魔法使いにしておくのは勿体ない器用さだ。おめぇ、どうしてドワーフに生まれてこなかった?」

 ドワーフの熟練職人が話しかけてきた。 彼がミーナの父親だった。

「まったく、冒険者なんて止めて弟子入りするなら、娘くらいくれてやるのだが……」

「娘さんが聞いたら、激怒されますよ?」

「構わねぇよ。ミーナの奴もおめぇを憎からず思ってるのがバレバレだ」

 ユウトは苦笑するしかなかった。彼はドワーフ職人の言うことが冗談だと思っているようだ。

「ところで――――」とドワーフ職人は店内に視線を移した。

「あの娘は、お前の子供ってコトでいいのか?」

 店には、椅子に座りユウトを待っている幼女がいた。

 彼女の正体は、ユウトが使っていた杖の精霊だが――――ユウト自身は、それを知らない。