追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 ミカエルは1人でキング・ヒュドラの猛攻を受ける。

「やれ! ケイデン!」

 その言葉を受けて、側面に移動していたケイデンが攻撃を開始する。

 『剣聖(ソードマスター)』ケイデンの攻撃。

 人間離れした身体能力は、キング・ヒュドラの首まで飛び上がり、剣を振るう。

 A級冒険者が使用する剣は、最高級の品物。 キング・ヒュドラとの戦いも初めてではなく、何度も首を刎ねてきた。 しかし――――

「――――っ!?」とケイデンは奇妙な手ごたえを感じた。

(首が切断できない。頑丈さが通常のキング・ヒュドラとは別物なのか?)

 考えてみれば、ダンジョンの主である魔物が出入口付近を徘徊していたのだ。

(通常のソレとは違う。ダンジョン内部で、何か起きているのか?)

 ケイデンはそう感じながらも――――今度は本気で『剣聖』の技を振るう。

 今度こそ、切断されたキング・ヒュドラの首が1つ落ちる。

 しかし、この魔物の首は9つ。切断できたのは、まだ1つだけ――――

 まだ防御に集中していたミカエルは、次の指示を出す。 

「エリザ、聖水を使え!」

「はい!」と彼女は作ったばかりの聖水をキング・ヒュドラに投げつける。

 聖職者が作れる聖水は魔を祓う。 周囲に振りかければ、魔物が寄ってこない。

 さらにダンジョンの主と言われる魔物は、魔法陣によって仲間を召喚する。 

 聖水には、それを阻害する力がある。

 加えて、魔物に取っては猛毒だ。 彼女が狙って、投げつけた場所は、ケイデンの攻撃で切断された首の跡。 

 キング・ヒュドラの超回復能力だが、聖水に濡れて回復速度が目に見えて低下していく。

 首を切断され、聖水と言われる猛毒を投げつけられ、魔物は怒る。

 怒りのまま、顎を開いた。 

「来るぞ、毒属性の範囲魔法だ……レイン」

 彼女に不信感を持ち始めていたミカエルだったが、今は戦いの最中だ。感情を振り払って指示を飛ばす。

「はいはい、既に狙いは――――定めているわ」

 彼女は弓兵。 それも『高弓兵(ハイ・スナイパー)』と言われる特別職。

 矢を速射――――キング・ヒュドラの残された8つの口に次々に射抜いていく。

「これはついでよ!」と彼女はさらに、その目を正確に射抜き始めた。

 8つの口に16の目。 合計24の箇所に命中させてみせる。

「す、凄い……これがA級冒険者の戦い方ですか」

 そう呟くオリビアの声。 それはミカエルの耳に届いていたみたいだ。

「君も、その一員だ。さぁ……とどめを!」

「は、はい! では!」と彼女は詠唱を始めた。

「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地の落ちろ――――落雷撃(フルグル トニトゥルス)

 詠唱にミカエル以外の仲間たちは、一瞬だけ動きを止めた。

 その詠唱と魔法は、かつて追放した仲間が使用していた魔法と同じもの。

 そして、その威力は――――

 轟音が響き、ダンジョン内で魔法の雷が魔物を貫き、全身を焼き焦がした。

 その魔法の威力を知る彼等は、勝利を確信した。

「勝ちましたね……それにしても、どうしてダンジョンの主がこんな所で?」

 エリザが警戒しながら、倒したキング・ヒュドラに近づく。

 間違いなく絶命している。 それを確認するのと、素材を取るためだ。

 それぞれが素材を採取する間、この奇妙な出来事の原因が何か? それを探っている。
 
 高額で冒険者ギルドに売れる素材を採取し終えると――――

「――――これは想像だが」とミカエルは口を開いた。

「このキング・ヒュドラは、(ボス)の座から追われて、逃げ出した個体ではないのか?」 
 
「待て」と彼の意見に口を出したのはケイデンだ。 彼が自分の意見を言うのは非常に珍しいことだ。

「コイツは俺の剣でも、一撃で首を刎ねれなかった。通常のキング・ヒュドラよりも強い。ミカエルがそう思うなら、根拠を尋ねたい」

「……」とミカエルは無言になる。思わぬ反論に言葉を失った――――わけではない。
 
 彼は歩き出し「みんな、ここを見てくれ」と指した場所。そこには異変があるようには見えないが……

「よく見てくれ。きづかないか? ここに傷がある」

「――――」とミカエル以外は顔を見合わせた。

 キング・ヒュドラの超回復。それでも完全回復していない一撃を負っている証拠。

 それも魔物の牙の跡。ならば――――

「早く、ここを離れた方がいい。もしも、この傷をつけたものがいるなら、近くまできている」

 ミカエルは撤退を指示する。しかし、既に遅いようだ。

 耳に地面を這う音が届いて来た。 このキング・ヒュドラに傷を負わせて、追ってきた魔物が近づいてきているのだ。

 そして、それは姿を見せた。

 先ほど倒してキング・ヒュドラと同類の魔物――――しかし、それは巨獣と表現されるキング・ヒュドラよりも遥かに巨大だった。
 
 つまり、強化種のキング・ヒュドラ。 

 強化種とは、ダンジョンが気まぐれで生み出す魔物。通常の魔物よりも遥かに強化されているが――――

「馬鹿な―――――ダンジョンの主が強化種として生み出された? そんな前例は――――ない!」

 明らかにダンジョンで起きた異変。 ミカエルたちに戦うという選択肢は生まれない。

 頭目たるミカエルが指示するまでもなく、全員が背を向けて走りだした。