――― 数日前 ―――

 ユウトを追放したミカエル達。

 新しい仲間 『大魔導士(アークメイジ)』 オリビアを仲間に向かえた。

 しかし、すぐに難易度の高いダンジョンを目指すわけにはいかない。

 各々が、役割を理解することがダンジョン攻略に必要な事だ。
 
 そのために、難易度の低いダンジョンを練習のために攻略していた。しかし――――

「ねぇミカエル……」とダンジョン攻略を終えた彼の元にやってきたのは女性2人 レインとエリザだった。

「そろそろ、難易度が高い所に行ってみない?」

 そのレインの言葉にエリザも同調する。

「そうですよ。せっかく、戦力を強化したのですから、いろいろと試して行きましょう」

「……」とミカエルは考え込む。 

 確かに連携は機能している。 それにオリビアの魔法は強力で多彩だ。

 しかし、ミカエルには不十分に思えた。 何か見落としがあるのではないか?

 そのため、高難易度ダンジョンの挑戦を遅らせていたのだが……

「わかった。では、明日は休息だ。休暇明けには――――高難易度ダンジョンに挑む」

 ミカエルの言葉にレインとエリザは満足したようにだった。

 この仲間(パーティ)の力関係。頭目(リーダー)の立場こそ、ミカエルだが、女性陣2人の発言権は強かった。

 その理由はミカエル・シャドウが貴族の生まれにある。

 貴族に取って跡取りの長男が優遇される。 次男からは長男が何かあった時の予備。

 それが、貴族の四男として生まれたミカエルにはたまらなく不満だった。

(このままでは、自分よりも愚かな長兄に頭を下げて、養ってもらう生活。長兄が亡くなれば、その息子に小遣いを貰うのか? そんな生活は嫌だ)
  
 彼はプライドが高かった。 貴族でありながら、貴族の慣例を受け入れないほどに……

(自分よりも愚かな長兄……俺が跡を継ぐためには――――)

 長男を差し置いて、弟が家を相続する。そんな方法は確かにある。

 (暗殺などは論外。あくまで正攻法で、父上も母上も、そして長兄自身が納得する方法が好ましい。 だとすれば――――)

 戦争で武勲を立て、奪った領土を納める。

 あるいは王族に気に入られ、継承権に口出ししてもらう。

 他の貴族令嬢と婚約して、先方の領土をもらい受ける。

 後は――――冒険者として名を上げ、英雄として凱旋する。

 ミカエルは最後を選んだ。 一方的に冒険者になると宣言して家を飛び出した。

 彼はその時の事を――――

「今となっては、若さゆえの無謀と無策。 無鉄砲と笑い飛ばすことができる」

 そう語るが、彼の野心の高さ――――貴族として高みに登ることは全く諦めてない。

 ミカエルは家を飛び出したと言っても、貴族として個人資産を持っている。

 その金と持ち前のカリスマ性を使って、優秀な仲間を勧誘に使った。

 当時は1人でダンジョンに挑んでいた剣士 ケイデン・ライト

 妙に町で知名度と人気があった魔法使い ユウト・フィッシャー

 最初は、この3人組でダンジョンを目指していた。

 その後、加入したレイン・アーチャーとエリザ・ホワイト……この2人を勧誘したのは彼女たちの実力よりも立場を欲したからだ。

 レイン・アーチャーは、普段の奔放な振る舞いからは想像できないが実家は貴族――――つまり、貴族令嬢である。

 エリザ・ホワイトも教会の権力者――――大司教の娘だ。

 もしも彼女たちと婚約できたなら、ミカエルは貴族としての地位が盤石となる。

 そんな打算もあって、ミカエルはレインとエリザの2人には逆らえない。

 そもそも、ユウトを追放した理由も――――

「ねぇ、もっと女性を仲間に入れない?」

「――――それは構わないが、君たちの取り分も減る事になる。依頼報酬の額を気にしていたのではないのか?」

「そうね……それじゃ、1人だけいらない人いない?」

「……何を言っているんだ、君は?」

「知らないの? エリザは彼のことを嫌っているのよ? 変な目で見て来るってね!」

「それは、後方から戦況を……」

「あなた、欲しくないの? 私たちが持っている権力を」

「なっ――――」

「馬鹿な男。私たちが気づかないと思っていたのかしら? 地位と権力を望むなら……ね? わかっているでしょ?」

 この会話をミカエルとレインが交わした場所。

 どこからか、奇妙なお香が使われていた。

(違法な薬物を混ぜた物……そんな物を使ってまで、ユウトを……)

 ミカエルは、それに気づいていたのだが――――

「わかった。ユウトを追放しよう」

 そう決断した。 それは彼がレインの危険性に気づいていたからこその判断だったのかもしれない。

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「それでは、今日から高難易度と言われるダンジョンに挑戦する。ギルドからの依頼内容は――――キング・ヒュドラの討伐だ」

 その言葉通り、ミカエル一行は高難易度ダンジョン――――一般的にはA級冒険者のみが挑む事を許されたダンジョンだ――――その前に立っていた。

「オリビアには、まだ不慣れな所があると思う。我々が全力でフォローしていくので、安心して欲しい」

 ミカエルは、オリビアと目を合わせてほほ笑む。

 彼女は――――「はい、大丈夫です」と頬を赤らめた。

 ミカエルは、自分の容姿が誇れるものだと理解している。 そして、それを女性陣の士気を高めるために使う。

(我ながら、品のない方法だ。しかし、俺たちは停滞するわけにはいかないのだ)

 そうして彼等は高難易度ダンジョンに足を踏み入れた。

 ――――それがまさか、あんなことになるなんて……

 この時は誰も知るよしもなかったのだ。