それは昔々の出来事……数百年か、あるい1000年以上前に起きたことか? 

 この国の建国神話である。モンド国王は、ただのモンドと言われていた頃。

 彼は1人の冒険者に過ぎなかった。

 この時代、世界の治安は悪かった。膨大な魔力と高い知性を有する魔族と言われる魔物たちは国を作り、人間の国を滅ぼそうと狙っている。

 それにも関わらず、人間たちは協力することなく、自分達の利益を追求。

 人間同士の国が戦争を行う事も多々あった。そんな時……

「俺が偉い王さまになって世界を救ってやる、その前に魔王退治だ」

「バカ、その前に村からゴブリン退治の依頼でしょ? あっ、近くの森で薬草採取の依頼も達成できるじゃない」

「夢がねぇ!」と仲間たちと笑っていた。 

(もう顔も名前も思いだせない。確か彼女が初恋の相手……そして、結婚までしたはずだった)

 幸いにしてモンドは冒険者として優秀だった。優秀すぎたとまで言える。

 魔族との戦いにも参加して、多くの富と名声を手に入れた。 だから、彼は少しだけ夢の続きをみた。

(なにも、なにも本気で王さまとか、国作りをしようとしたわけじゃない。 ただ、戦争で親を亡くした子供たち。怪我や病気で戦えなくなった元冒険者たち。それから、若い冒険者を育てるため…… そんな居場所を作りたかっただけだった)

 モンドが冒険者時代に手に入れた莫大な資産。 それで土地を購入してむらを作る所から始めた。 

 徐々に彼に慕う者、彼の夢に賛同する者、支援を申し出る者……

 気づけば、モンドは村長ではなく町長と言われるようになっていた。

 (幸福だった。しかし、人間は幸福な時に忘れる。世界はまだ乱世であったことを……)

 時代は乱世。だから、珍しくもない。

 戦争に敗れて、山賊に身を落とした軍隊が町を奪略することなど……

「止めてください。この町はあなたたち軍と同じ国……味方でございます」

「黙れ! 味方というなら、黙って女と食料を寄越せ!」

「どうして……」

「あん?」

「なぜ、神々はこのようなこと望んではいません!」

「あ~ 悪いけど、その質問は俺じゃなくて神様に直接聞いてくれよ」

 白刃が煌めいた。 しかし、それを彼は見えなかった。なぜなら……

 交渉のため武器を持たず出向いたモンド。そんな彼に賊たちは背中から襲ったのだ。

(俺は一体……そうだ。背後から……)

「町は!」を彼の意識は急激に覚醒していった。 そんな彼が見たものは……

「なんと、なんと惨いことを……」と絶句する光景が広がっていた。 

 それをこの世の地獄以外に何と言えば良いのだろうか?

 打ち捨てられたしたい。子供も大人も男も女も老いも若きも……ゴミのように捨てられていた。

 建物も、家もは破壊され、燃やされ原型をとどめない。

(ならば、ならば俺の家は…… 妻は?)

 駆け出そうとする。しかし、一命をとりとめても、その傷は浅くない。

 激痛。自分の意思に従わない体。ならば、走る事も叶わない。

 それでも、傷を庇いながら地面を這うモンドが、ようやく見えた彼の家。

 ————いや、彼の家だった場所というべきか。

 それは人の残虐さに例外は存在しないと言わんばかりに――――蹂躙されていた。

「おぉ……おぉ神よ。 どうして、このような仕打ちを? これが貴方が与える試練だとおっしゃるなら、私は――――

 人の世を滅ぼしてみせましょう。 

 それは、煉獄の如く無限の月日が必要であったとしても、私は必ず――――」

「それはいい。お前には、その資格がある」

 モンドは見た。 空から男が現れたのを――――

 まるで不可視の階段を一歩、また一歩と歩いて近づいてくる男。

(何者であるか? 魔族……しかし、このような男は初めて見る)

「ふっ……」と男は笑った。 それから本と取り出した。黒い、黒い本だった。

「お前が頼った神が顕現しても、何も感じぬならば……心が死んだか。これは好都合だ」

 そう言うと男————神がモンドに魔導書を手渡した。

「ならばいい。貴様の願いを叶えて進ぜよう。この力で国を、世界を滅ぼせ」

 だから、モンドは――――

(あぁ、きっと彼は、悪魔なのだろう。だから、俺は―――― 邪悪を滅ぼすためなら、悪魔とだって契約を交わす) 

 この日、最初の魔導者使いが誕生した。 

(まずは力を持たねば……世界を騙して、絶賛されるほどの力を――――さしずめ、魔族を滅ぼして、次に人間を滅ぼそう。そうしよう……)

 今後数百年。激化していった人間と魔族の戦争。

 その理由が、この男の策略だったことは誰も知らない。 

 いや、モンド王本人以外であれば————この場所にいる神のみぞが知っていたのかもしれない。