「我が王……地下路の中、軍師の遺体が残されていました」

「……」と兵士からの伝令にモンド王は天を仰いだ。

 重臣たちは知っている。 こうなった後の王は残虐になる事を。

「それで、反逆者どもはどうなった?」

「は、はい。地下路には誰もいませんでした」

「――――そうか」とモンド王は頷いた。それから天幕に下がる。

 重臣たちの「……」と重い沈黙を背中に、信頼していた軍師への言葉を送った。

「我が軍師 アルカナよ。お前がどのように戦い、どのように死んだか?」

 その後、周辺の捜索が大規模で展開されたが、ユウトたち5人は発見されることはなかった。

 それは敗北である。 モンド王自らが率いる3000人の軍は5人に敗北した。

 決して公式記録に残すべきではない国の汚点。 すぐさま軍内部はもちろん、周辺の住民へ緘口令が引かれた。

 それから一週間、秘密裏にユウトたちの素策は続けられたが、その足取りは掴めずにした。

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 ――――夜————

「――――ください。起きてください、我が王」

「……なんじゃ?」とモンド王は目を覚ました。

 起こした者は王の身の回りを警護する者————親衛隊の隊長であった。

「落ち着いて、決して驚かずに聞いてください。謀反です」

「……今、この城内でか?」

「はい、謀反人は――――ご子息のルオン王子です」

 モンド王は驚かず、「うむ」とだけ声を発した。それから

「武器を、槍も持ってこい」とだけ命じた。 やがて、寝室の扉が乱暴に開かれた。

 武装した兵。正規軍————されど、ルオン王子の腹心である。

 その者たちに親衛隊隊長は声を張り上げる。

「ここはモンド王の寝室である! なんびとであれ、立ち入ること敵わず!」

 一瞬、兵たちは怯む。だが、兵の前に姿を現したルオン王子。

 彼は冷淡に命じる。 「矢で射抜け」とだけ――――

 文字通り、国に弓を引く行為。

 兵たちにも緊張が走るも――――その命に応じた。

 王の寝室に乱れ入った兵の数は10人にも満たない。それらが同時に弓矢を射る。    

 「御免」と親衛隊長が、自ら王の盾になろうと飛び出した。 それも、どれだけの意味があっただろうが? 

 無残にも、倒れていく彼の命。

 それと引き換えにモンド王が得られたの僅かな延命。 

 何本かの矢がモンド王にも刺さっていた。 続けてルオン王子は――――

「射抜け」と同じ命令を出した。

 どすッ どすッ……と立て続けに鈍い音が聞こえる。

 今度こそ何本もの矢がモンド王の体に突き刺さった。

 しかし、モンド王は倒れない。それどころか息子であるルオン王子を威圧した。

「なんの真似だ、ルオンよ。魔導書を失い、後継者から外れたと……」

「黙れ! 怪物めが!」とルオン王子は声を張り上げモンド王の言葉を遮った。

「見よ、我らが王はすでに魔物に取って変わられた。あの不死身が証拠よ!」

「なんのつもりだ。っそんな茶番など……」

 だが、この時になってモンド王は初めて気がついた。自身を囲う兵士たちの顔に見覚えがあった。

 彼等はモンド王の幕僚————高等武官たちだ。 
 
「重臣たちを味方につけたか……ここで我を討ち取って自らを王と名乗るか? ルオン王子?」

「ここはあえて、然りと言わせていただこう。今宵は、不死身である貴方と打ち取る千載一遇 のチャンス。その首を頂く!」

「来るがよい。愚息に尻尾を巻いた貴様らも同罪————所詮、国の支配など、我が1人がいれば、どうにでもなるわ」

 モンド王は槍をルオン王子に向けて駆け出す。

 ルオン王子も剣を抜いて、兵と共に駆け出す。

 だが、その時———— 誰も気づかない。

 彼等の争い。その上空に黒い影が飛んでいる事を――――そして、それは城の最上部に向けて落下を開始した。

「なにが……起きた?」とモンド王。

 ここは、堅城の天守閣。 それを破壊する奇襲攻撃は、建国以来初めての事であった。

 夜空に星々が浮かぶ中、そこにはドラゴンがいた。

「おのれ、『憤怒』のインファか……ルオン王子の謀反と同調したか!」

 だが、この奇襲に対してルオン王子も予測していた様子はなかった。

「まさか、偶然か?」と王も眉をひそめた。

「――――いや、まさかでしょ? 狙ったのさ。おそらく謀反が今日にでも起きると予想して」

 その声は『憤怒』のインファではなかった。 その上————ドラゴンの頭部に乗っている男の声だった。

「今日……ここで魔導書大戦の決着をつけて、全てを終わらせる。そのために俺はここに来た」

 ドラゴンの頭部から飛び降りた男の影。着地した城内の灯りに照らされて、明らかになった顔は――――

「貴様は、『暴食』のユウト? 貴様が、貴様なんぞが、我が国を滅ぼそうとするか!」 

 モンド王の咆哮。それと共に男に――――ユウトに槍を走らせた。