素早い蹴り。 巨大なゴーレムとは思えない速度。

「ほう……操縦者は格闘技に精通している動きですが、誰ですかね?」

 ゴーレムの攻撃を避けながら、アルカナは分析する。

「内部から直接操作しているにしても、ゴーレムを操る最低限の魔力を持っている……想定できるのは3人か?」

 アルカナは魔導書を取り出した。 彼は当代の魔導書大戦の参加者ではない。

 しかし、過去の参加者の魂を体に封じられている。

 ゆえに――――

「魔導書の種類は『色欲』 この力は蘇る」

 いつの時代も『色欲』の能力は、洗脳操作系。

 彼の足元には魔法陣が浮き上がる。

 召喚魔法だ。 かつて、彼と大戦を戦い抜いた英雄。

 アルカナの相棒は、剣闘士だった。 

 剣闘士……剣と振るうための奴隷、剣奴として、対人戦闘を人前で披露する男だった。

「――――久しいなマックス、マックス・アイアンフィスト」 

 召喚された男は、頷いた。 既に魂は昇天している。

 意識があるように見えるが……。しかし、そうではない。

 肉体に残された記憶が動かさせているだけだ。

 一瞬、悲し気であり、寂し気な表情を見せたアルカナであったが――――

 「行け! マックス……その剣技を見せよ!」

  マックスと呼ばれる剣闘士は、ゴーレムに向かって剣を振る。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・  

 剣闘士は闘技場で戦いを見せる者。 だからだろうか?

 その装備————胴体を守る防具はない。  

 持っているのは剣と盾。 それで身を守るのだ。

 ただし、妙に派手な兜は着用している。 そんな剣闘士の基本装備から外れる事もないマックスの姿形。

 最初に攻撃を繰り出したのはゴーレムの方だった。

 巨大な拳を突き出し、床を揺らすような一撃を仕掛けた。

 マックスははその攻撃を見切り、身の軽快な動きで回避。

 反撃として放った刺突。 ガッキンッ――――と異音が鳴り響いた。

 鋭い剣が石の身体にぶつかる音が響き渡ったのだ。

 しかし、ゴーレムにはほとんどダメージを与えなかった。

 マックスは敏捷に身をかわし、巨体の足元にダッシュ。

 狙いは下半身。 重量感のあるゴーレムにとって弱点とは言える。

 そこで彼は剣を石のひざに突き立て、岩の肉体を崩れ落ちさせようと試みた。

 しかし、ゴーレムはその拳でマックスを叩きつけ、彼女は地面に叩きつけられてしまった。

 もしも、この場所が闘技場ならば観客席からは驚きの声が上げただろう。

 そしてマックスは諦めなかった。彼は瞬時に立ち上がり、剣を手に再び戦闘の構えをとった。

「待て、マックス」 

 それを止めたのは召喚者であるアルカナだった。

「まだ1人目だ。時間をかけるわけにはいかない……切り札を使うぞ」

 再びアルカナの足元に召喚の魔法陣が輝いた。

 闘技場では剣闘士が戦う場所だけではない。 水を溜めて船で戦うこともあれば――――戦車競走。

 二匹の馬に戦車を曳かせて速さを競う。 そういう戦いもあった。

 今、出現したのはその戦車だった。 「……」とマックスは、無言で戦車に乗り込む。

 剣の代わりに手にした武器は槍。どこから取り出したのだろうか?

 戦車を走らす。 その速度は短時間でトップスピードにたどりついた。

 そして槍を構えて、加速させた戦車からゴーレムと接触する直前。僅かな隙間から――――

 投擲

 決して広くない地下路に破壊音が轟いた。

 どうなったのか? 戦車を失ったマックスが武器を剣に持ち替えている。

 対するゴーレムは、一部が瓦解している。 特に槍を受けたであろう胸部は破壊され、乗っている操縦士が明らかになる。

 それを見たアルカナは「ほう……これは奇遇だな」と呟いた。

 中に乗っていたのは『色欲』だった。

 当代の『色欲』 メリス・ウィンドウィスパー。 彼女がゴーレムの操縦士だった。