追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 目前に広がる光景。3000の兵士が向かってくるのは壮観だった。

「おいおい、流石にこれは洒落にならないじゃないか?」

 迫り来る軍勢。それに対してユウトの声は、なぜか軽い。

 それにインファは、眉を顰めながら――――

「言葉のわりに余裕があるじゃないか? 何か手があるのか?」

「さて……ね? 打開する方法はあるけど、気が進まない」

「ふん、気が進まないか。面白い、やってみせろ」

「それじゃ、ドラゴンから人の形態に戻ってくれないか?」

「うむ」とインファを素直に応じる。それから、

「こっちだ」と言うユウトの後について行く。

 途中、彼の目的地に気づいたインファは笑った。 

「くっくっく……やはり、面白い事を思いつく奴だな。中々、性格が悪い」 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「止まれ!」と軍の指揮官は叫んだ。 

 目前には呆然と立ちすくむルオン王子。当然、お救いするべきだ。

「ご無事ですか?」と司令官の声に「あぁ」とルオン王子は答える。

 どうも心ここに非ずといった様子。 すぐに彼が負っている傷の深さに気づいた。

(ひどい怪我だ。なんせ、あのドラゴンに挑んだのだ……。しかし、回復薬があれば問題なかろう)

 司令官はルオン王子の負傷に納得する。 だが、彼が呆然としている本当の理由はわからないだろう。 

 ルオン王子が持っていた本————魔導書が焼け落ちて失っている事を気づくはずもない。

「すぐに治療を」と衛生兵に王子を任せる。

 なぜなら彼の……いや、軍の目的はドラゴンだからだ。

(だが、今はその巨大な姿を見失った……そんな事があるだろうか? 一体、どこに隠れた?)

 指揮官の動揺は、兵をも乱す。 敵を見失い行き場を無くした3000人の兵たち。

「ならば……」と自身の麾下(きか)から、素早く目の良い者を10名集める。

 いずれも冒険者として経験のある者だ。 魔法で姿を消した者も発見できる力量を持つ。

「お前たち、姿を消したドラゴンを探せ!」

 散開して周辺を探り始めた彼等は優秀な人材のようだった。すぐに――――

「隠し通路を発見しました」と声が聞こえてきた。

「うむ……地下路か。この辺りならば……」と司令官は頭の中で地図を開いた。

 彼が司令官として、今回の指揮を任せられた理由。それは市街戦での能力が高さによるもの。 増して、ここは彼の住んでいる城下町……何度も戦闘シミュレーションは行われている。

「この地下と繋がる水源はない。 いきなり、水計に襲われる事もないだろう」

 彼は馬を捨て、地下路へ飛び込んだ。 配下たちも――――

「司令官に続け!」と追いかけていく。 無論、3000の兵が地下路を進むわけには行かない。 地下路を進むのは司令官直属の精鋭……それでも100は近い兵力だ。

 集団が地下を駆け抜けていく。 

「妙だな」と司令官は並走する腹心に呟いた。

 腹心の男は上司に「何が?」と聞くわけにはいかない。わからないまま「はい」と同意するしかない。

「ここには想定していたような罠はない。我らが王の密偵が調べた所、敵には魔法使いのユウト・フィッシャーがいたはず……」

 彼等が聞かされた敵勢力。 そこには最上位冒険者であるメイヴ・ブラッドウッドがいたのは、驚かされた。

 しかし、それだけではない。

「俺らの敵には、あの冒険者……ミカエル・シャドウがいる」

 腹心は、緊張のあまり喉を鳴らす。 

 A級冒険者として頭角を現したミカエル。

 個人の戦闘能力ならばS級冒険者のメイヴが上……しかし、統率力の高さはミカエル・シャドウには、職業軍人たちも評価しなければならないほどのもの。
  
「あの男が反逆者どもの指示を取っているなら、ここらでユウトとレインによる遠距離攻撃を仕掛けて来るはず……」

「しかし、追撃の気配もありません。そもそも、本当に反逆者たちは地下路に逃げたのでしょうか?」

「――――情報が少ない。地上では残った兵が捜索をしているはず……今は、我らは進む先にいる。そう信じるしかなかろう」

 そんな会話を交えてる最中、司令官は違和感を覚えた。

(むっ! 体にふらつきが……呼吸が乱れる。まさか、不可視の毒をながされたのか?)

 他の兵たちの足が止まっている。 鍛え抜かれた精鋭たちが、運動不足の中年男性のように息を上げて――――

「いや、待て! お前等……一体誰だ?」

 司令官は気がついた。 自身の部下たちの顔が変わっている。

「いつの間に別人と入れ替わったのだ!」

「な、何を言って……司令官殿、ご乱心か!」と腹心の男が司令官を止めようとする。

 しかし、互いに「「あっ!」」と驚きの声を上げた。

 司令官と腹心。 彼等の顔は――――

「ふ、老けている! そんな僅かな時間で歳を取っている!?」