街中に轟いた銃声は稲妻の音よりも大きかったかもしれない。

 それが魔法ではなく、武器によるものだと理解できる者はほとんどいないだろう。

 最新兵器である銃から放たれた弾丸は、ドラゴンの内部に叩き込まれた。

 ————それだけではない。 それだけでは終わらない。

 龍殺しの魔剣を材料に作られた弾丸を30人の射撃手によって浴びせられた。

 ドラゴンがドラゴンである以上、インファの死は確実だった。だが――――

 インファは生きていた。

「なっ、何故だ! こいつ動くぞ!」

 この時代の銃というものは連射できる物ではない。 

 撃つためには、火薬と弾は銃口から注ぎ込む。

 小さな杖で突き固める。  

 そして、火のついた小さな縄————火縄を取り付けるのだが……

 2発目を撃つのに、同じ工程をしなければならない。 火薬や弾はもちろん、火縄も1発撃てば取り替えねばならない。

 騎士たちはマスケット銃を捨て、剣を構えた。

 彼等は、ルオン王子は混乱している。

 龍殺しの魔剣————いや、龍殺しの魔弾と言うべきか? 

 とにかく、それを全身に撃ち込んだのだ生きてるはずはない。

 もちろん……インファが体内に何も仕込んでいなければ――――いや、正確には誰も潜んでいなければ……だろう。

「――――無茶させやがる。まさか、俺を飲み込んで防御に専念させるなんてな」

 その声はインファの内部から聞こえてきた。 男の声————ユウト・フィッシャーの声だった。

 立ち上がり、口を開いたインファ。その中からユウトは顔を出した。

「なんだと! 『暴食』を食らっていたのか! 狂っているのか?」

 ルオン王子が放った弾丸。それからインファを守ったのユウトの防御魔法————『炎壁(イグニスムルス)』だった。

 それだけではない。30方向からの一斉射撃。それもユウトが防御魔法によって防いでいた。

「おのれ、『暴食』……お前も国に反するつもりか!」

「国だって? いや、俺も急に飲み込まれて、インファから――――

『防御魔法で支援しろ。さもなきゃ、飲み込んだまま消化するぞ』

 なんて脅かされたもので。何が何だか?」

「黙れ! お前も謀反人だ! 処刑してくれる!」

 冷静さを欠いたルオン王子。これは配下を引き連れ、自らが先頭でインファとユウトに挑んだ。

 しかし、それは悪手とは言えない作戦であった。

 彼の能力は、味方の人数と力量によって強化されるもの。ならば、味方が欠けるよりも早く攻撃を続ければ――――

 だが、再び轟音が響いた。 その音と共に、ルオン王子の隣で騎馬を走らせていた騎士が落馬をする。

 何が起きたのか? 見れば銃を手にした女性が立っていた。

「あら、これ……私の弓矢より便利かもしれないわ」

 彼女はレイン。 落ちていた銃を拾って、撃った。

 そこに打算も何もない。ただ、撃ってみたかっただけ……それで、この戦いの均等を大きく崩した。

 ルオン王子は喪失感に襲われる。 

「ち、力が抜ける。おのれ、『暴食』だけではなく『怠惰』も敵に回るか!」

「え? 何の事? 私は、そんなつもりないけど?」

「黙れ!」と怒りをレインに向ける。 しかし、迷いが生じた。

 銃をもったレインは脅威だ。 だが、それ以上の脅威はインファに間違いはない。

 だからと言って、レインに背を向けて良いのか?

 その隙を突かれる。 ドラゴンの牙がルオン王子から部下をもう1人奪い去ったのだ。

「王子! 私の忠義は――――」と男は最後まで言えず、インファに噛み砕かれた。

 そして、インファは3人目を狙う。

「くっ! そうはさせぬ!」とルオン王子は能力を発動。 自身の能力を受けた者と居場所を交換する効果だ。

 インファとルオン王子は互いに向かい合い、そして互いに攻撃を繰り出す。

 攻撃が終わった時、1人の人間が空に舞った。 

 その男はルオン王子だった。 胸部から腰までを噛み砕かれ、明らかに致命傷の彼は、そのまま地面に落ちた。

 あまりにも凄惨な戦いの決着。 その場にいた誰も――――インファすら動きと止めていた。 

 しかし、戦場は動いた。モンド王が一言————

「前に――――あのドラゴンを殺せ」

 それだけで3000の兵士たちが、一斉にインファに向かって駆け始めたのだ。