追放された魔法使いは孤高特化型魔法使い(ぼっち)として秘密のダンジョンと大食いに挑む

 それは奇怪な存在だった。 

 羽の生えた蛇のように見えるも、二足歩行の魔物。

 近しい魔物を言うのであれば、ドラゴンになるのだろうが……そいつをドラゴンと呼ぶのは憚れる。

 ならば、何と呼べは良いのだろうか? ただ怪物と言うしかないだろう。

 だが、しかし……ユウトは既視感に襲われていた。

(この怪物……なんとなく、その……似ている)

 だが、うまく言葉にはできない。 なぜなら、彼が似ていると感じる対象は――――

 そんな時、扉が開いた音がした。 振り向けば、見知らぬ男。

「――――ッ!」とユウトは突然の乱入者に警戒心を強める。

(一体、何者だ……通路は1つだけ。入り口にはメリスやメイヴたちがいるはず……)

 ユウトが知らない魔導書使いだとしたら、『嫉妬』と『傲慢』のみ。

 しかし、『嫉妬』は既に死亡。 『傲慢』は、細身の男だ。

 ユウトから警戒心を持たれている本人はというと、どこ吹く風か…… 

「うむ、似ている。ワシの天使にそっくりだ」 
 
 そう呟く。

(天使に似ている? この怪物が?)

 きっと誰かが、その言葉を耳にすれば驚くだろう。 それほどまでに天使の姿と怪物は乖離していた。

 しかし、ユウトは別の意味で驚いていた。 なぜなら、彼が抱いていた印象は、乱入者と同じものだったからだ。
 
 それは先に、あの天使……案内人であるゼロスを見ていたからだろう。

(……いや、まてよ。この男、天使のことを自分の物だと言ったのか?)

 なら、乱入者の正体は? この男の正体は?

「あなたは……」

「うむ?」と初めてユウトのことを認識したように視線を向けた。

「そなたは『暴食』のユウトであったな。楽しく見学させてもらっておるぞ」

「まさか……あなたが神か?」

「その通りだ、ワシがこの戦争の運営者――――すなわち神じゃ」

「――――」と反射的に杖と盾を構えたユウト。

 しかし、神を名乗る男はユウトよりも早かった。

 ただ早いだけではない。その動きは、ユウトが知覚する事すら難しかったのだ。

 異音が響く。

 神がユウトの盾を掴んだ瞬間、その盾は破壊された。

 ただ掴んだだけ。力も込められたように見えない。

 しかし、ユウトの盾は捻じ曲がっていた。

「――――この!」と困惑するよりも速く、ユウトは杖を振るった。

 しかし、魔法の執行よりも早く彼の杖は捩じ切られていた。

 武器と防具を破壊された。しかし、ユウトの瞳から闘志は失われていなかった。

 だが――――

「まだ早い」と神は笑った。

「ワシと戦いたいなら、とりあえず魔導書大戦を勝ち抜け。お前が最後まで勝ち抜いたら戦ってやろうではないか」

 そう言うと神はユウトに背を見せた。 気がつけば、破壊されていたはずの杖と盾も元に戻っていた。

 驚愕。 得体の知れない力にユウトは攻め手を失い、帰っていく神を見届けることしかできない。
 
 しかし――――「そうだ」と神は振り向いた。

「忘れていた。ワシがこの場に降臨した理由。それは明確なルール違反を起こした者への処分だったのだが……それはお前に譲ろう。神の手足として働け、報酬はくれてやる」

 その言葉が終わるのを待っていたように動き出す者がいた。

 黒い怪物だ。 魔導書に膨大な魔力を注入する事で出現した怪物。

 どういう事なのかわからない。 しかし、その怪物は背後からユウトを攻撃した。

 地面を転がるようにして回避したユウト。 対峙するのは二足歩行で羽が生えた蛇。

 そんな戦いの始まりに帰っていく神は最後に――――

「そうだ。名もなき怪物との戦いはやり難いだろ。とりあえず、堕天使とワシが任命してやる」

 それだけ言い残して神は去った。 

 名前は、得体の知れぬ存在を縛るものである。まして、神の言葉だ。

 怪物は、黒い天使のような姿に変わっていった。 まさに堕天使という名前通りだ。

 両手には剣……二刀流だ。 黒い姿と相対的に美しく白い剣だった。

 それがユウトに向けられて振るわれた。

(ただの剣ではない。 盾で受けるの悪手……そんな気がする)

 それは直感でしかない。あるいは冒険者として経験則だろうか?

 回避に徹底するユウト。

 隙を見て距離を取って―――― 

 『炎剣(イグニスグラディウス)

 ――――炎の魔法を放った。
  
 その効果は薄かった。 堕天使は両手の剣でユウトを魔法を切り裂いた。

「やはり魔剣の部類か? 近づくのは――――」

 近づくのはマズい。 そう言うつもりだった言葉が出てこない。

 ユウトは袈裟斬りの一撃を受けていた。 

「距離を無視して斬撃のみを飛ばした? しかし、魔力は感知できなかった」

 致命傷ではない。しかし、そのダメージは無視できるものではない。

 加えて、魔力を感知させない魔剣の斬撃……

「やれやれ……とんでもない怪物じゃないか」と回復薬を取り出して喉に流し込むユウト。

「全く『強欲』も無責任な事をしてくれた。それに神だって?」

 彼は笑っていた。

「厄介ごと……けれども面白い。愉快とまで言えれる。まずは――――お前からだ!」

 堕天使に向けて、ユウトの肉体は既に駆け出していた。