本体――――召喚主である幽霊騎士から分断された剣の魔物2体。

 その動きには、ぎこちなさを感じられる。

(本体である幽霊騎士は弓兵。その戦い方は俺たち冒険者と同じ……召喚した前衛に守ってもらいながら遠距離攻撃をしかけてくる)

 肝心の本体は、ユウトの魔法防壁によって動きを封じられている。 だが、無限に足止めできるものではない。

(剣の魔物――――前衛を今の内に倒さないと!)

 勝負を急ぐ。でも焦ってはならない。 剣の魔物も弱者ではない。

 自身を狙って目前で振るわれる剣。 もしもユウトが重装備の鎧を身に付けていなければ、即死だろう。

 しかし、鎧の安心感は彼の戦い方を大胆に、そして豪快なものに変えていった。

(剣をここで――――弾く! 生まれた隙に魔法を――――叩き込む!)

 迫り来る攻撃を盾で守る――――だけではなく、攻撃を受け流し、あるいは弾く。

 すると剣の魔物の体勢が大きく崩れたのだ。 だから彼は――――

炎剣(イグニスグラディウス)

 魔法を叩き込んだ。 その魔法名の通り、彼の杖から発した炎は剣のように見え、敵の胸を貫いた。 暗殺者を連想させる致命的な一撃(クリティカルストライク)を叩き込み、剣の魔物は消滅する。

「あと……1体!」と残りの敵を定める。 しかし、凄まじい殺意に動きが――――僅かではあるが――――止められた。

「――――この殺意の正体、本体である幽霊騎士のものか? 助かった……もしも、分断が成功してなかったら、射抜かれていた」

 今も1人、残されて防御壁を破壊しようと叩き続ける幽霊騎士。 その攻撃が激しくなっているのは気のせいではないはず。

 自身の配下を倒された怒りが見え隠れしている。

一方、最後の一体となった剣の魔物。 ただ操られているだけなのだろう……その動きに感情というものが見えずに単調だ。だから――――

「倒しやすい!」

風斬(ウェントゥス)』――――ユウトの魔法によって出現した無数の風の刃。それが、剣の魔物に叩き込まれる。

 彼の魔法 『炎剣(イグニスグラディウス)』が強い刺突の一撃のような物。

 対して、風斬(ウェントゥス)』は刺突と連続斬りの2種類に使い分けれるのだ。

 魔法の刃を複数回受けて、剣の魔物が倒れていく。 その前に――――

 「詠唱 雷霆の力を我に与え 今こそ地の落ちろ――――『落雷撃(フルグル トニトゥルス)』」

 狙いは剣の魔物ではない。 防御壁を砕こうとしている幽霊騎士は、その場に留まっている。 足元に浮かび上がった魔法陣に気づいていないのかもしれない。

 だから、間に合う。

 本来ならば、巨大な敵に使用する=隙と発動時間が大きい魔法。
 
 さらに詠唱による威力強化を加えた『落雷撃(フルグル トニトゥルス)

 雷属性の一撃が幽霊騎士の全身を貫いた。

「――――やったか?」と決着を想像したユウト。 しかし、幽霊騎士は立ち上がった。

「おいおい、ダンジョンの主だって無事にはすまない自慢の魔法なんだぜ? どれだけ頑丈なんだよ!」

落雷撃(フルグル トニトゥルス)』の二撃目の準備に入るユウト。しかし間に合わなかった。 幽霊騎士の一撃によって魔法防壁――――『炎壁(イグニスムルス)』 は、ついに砕け落ちた。

 半透明で判別することが難しいはずの幽霊騎士の表情。それがしっかりと笑っているのがわかる。

 獰猛な笑みだ。魔物だけが時折見せる、彼等だけの笑い方。 

 もしかしたら、人間は全て憐れな獲物だと思っている存在は、このような笑い方を向けて来るのかもしれない。

 幽霊騎士は素早く矢を弓へ装着。 早業と言える動作で矢を放った。

(だが、この距離だ。 十分に見てから避けれる!)

 ユウトを身を屈めると、地面を転がるように回避運動を――――しかし、幽霊騎士から放たれた矢に異変が起きた。

「なっ! 矢の軌道が変わった?」

 魔法? いや、ただの技術――――あらかじめユウトが避ける方向を予測して、矢の軌道が曲がるように撃ったのだ。

 回避運動の最中。自身に迫り来る矢が見えても、その動きを変えることはできない。

 ユウトに剛矢が当たった。

 当たった? その威力は『当たった』などと言う言葉で表現するには馬鹿馬鹿しい。

 兵器のようなもの―――― 直撃ではないが、その余波を受けてユウトの肉体は地面を転がる。

「ぐっああああっああああ……」

 激しい痛みに襲われながら、ユウトは着弾した場所。 自身の体が無事か確かめる。

 当たった箇所は腕。 激しい痛みと熱に襲われる。

 刺さっていたはずの矢は消えている。本体が幽霊騎士だからだろうか?

 無事とは言えないが、まだ戦える。 ただし、幽霊騎士の隙を狙って、雑囊の回復薬を飲む事ができたら……