【快人side】


「ほんとに行くのか……?」

「当たり前でしょ?後悔しないためにも行かなきゃ!」


俺はハルに連れられて、母さんが入院している病院を訪れていた。今は、病室の前で二人で立っている。

今日は母さんがこの病院にいる最後の日だ。

明日からは県外の施設に入ってしまうことが決まっている。
たくさん悩んで、悩みまくって決断したことだった。

たとえ、記憶なくしてしまっていても俺にとって、母さんは母さんだけでここまで大切に俺のことを育ててくれた人だから本当は施設になんて入れたくなかった。

でも、どうしようもなかった。

色々と爆弾を抱えた俺がこの先、母さんと一緒に暮らせる未来なんてどこにもなかったのだ。

自分自身を何回も恨んで、憎んだ。自分の無力さに打ちひしがれた。

今度は俺が母さんに恩返しをしようとしていたのに結局何も出来ずに離れ離れになってしまうんだ。

ごめん。母さん。
俺になんの力もないのせいで苦しめてごめん。

我儘かもしれないけれど、最後に一度だけ“カイトくん”じゃなくて“快人”って俺の名前を呼んで欲しかったな。なんて、心残りを抱きつつも俺は病室の扉に手を掛けた。