全部、一人で抱え込んで辛くても笑っていないといけなかったなんて……一体、君は笑顔の裏でどれだけの涙を流したのだろうか。

私はカイくんの手を引いて、病院の屋上までやってきた。
そして、彼をぎゅっと抱きしめた。


「ハル?」

「今なら、どうしてカイくんが私の気持ちを理解してくれたのかわかる気がする」


『忘れたくないなら忘れるな。それはお前にとっても大切な出来事なんだから』

君一人だけが渉くんを忘れることのできなかった私の気持ちを否定しなかった。
それは彼が“忘れられた人”だったから。大切な人から忘れられた悲しみを誰よりも知っている人だったからだ。


「……」

「私がカイくんの泣き場所になるよ」


君がいつか私に言ってくれたように。今度は私が君の泣き場所になるから。

だから、もう一人で悲しまないで。
無理して笑わないで。
嘘の笑顔なんて、見たくない。


「っ……」


静かな嗚咽が耳に届き、肩を濡らす。それは私の腕の中にいる彼が泣いているという証拠だ。


「母さん……母さん……っ」


普段は呼べないその言葉を彼は噛み締めるように何度も何度も呟いた。

親子なのに、呼んではいけない。