それくらい、カイくんにとってお母さんは大切で仕方がない存在だったのだ。

まだ高校生で自立できない彼に記憶のない母親の世話をすることは不可能だったのだろう。

だから、今回のことだって仕方なく施設に入れるという選択をしたのかもしれない。

きっと、たくさん悩んで苦しんだ上で、下した決断だったんだろう。

あの太陽のように眩しい笑顔の裏に隠されていた彼の辛さや苦しみ、様々な葛藤を私は何も知らなかった。


「……」

「いつまでもここにいられないから……って。私、嬉しかったの。カイトくんとたくさん話せて。今まで本当にありがとうね」


その声はとても穏やかで彼女は全てのことを受け入れているかのように思えた。


「まだ、いるんだろ?それまで毎日来るから……」

「もういいのよ、カイトくん。学校に行きなさい……私のことは大丈夫だから」

「っ……」


お母さんは本当は気づいていたのかもしれない。

カイくんが学校に行かず、嘘をついて会いに来ていたことに。だから、少し複雑そうに笑っているんだ。


「か……悠未さん…」


“母さん”

そう、出かかった言葉は飲み込まれ、代わりに名前を発したカイくん。