先程の雰囲気とはまるで違う穏やかで優しそうな雰囲気に今度は心がじんわりとあたたかくなっていく。

とても、優しいお母さんなんだろうな。

なんだかカイくんが底なしに優しいのもわかる気がする。

カイくんはそばにあったパイプ椅子に腰を下ろして、お母さんの折れそうなほど細くて白い手をぎゅっと握った。

私だけ立っているのはおかしいからカイくんの横にあったパイプ椅子へ静かに腰を下ろした。


「悠未さん、今日は何話す……」

「カイトくん、私ね、もうすぐ施設に移るの」


カイくんの言葉を遮って、お母さんが窓の外よりもっと遠い場所を見つめてぽつりと言った。

施設……。

このことをカイくんはもちろん知っていただろう。
二人は家族なのだから。

お母さんの手を握っているカイくんの手に先程よりも力が入ったのが分かった。

辛いに決まっている。施設に入ってしまったらこんなふうにしょっちゅう会うことは出来なくなってしまう。

大切な人に会えなくなってしまう。

カイくんはたとえお母さんが自分のことを忘れていてもそばにいることを選んだ。辛くてもそばから離れなかった。